研究課題/領域番号 |
15K16682
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研究機関 | 鳴門教育大学 |
研究代表者 |
黒田 俊太郎 鳴門教育大学, 大学院学校教育研究科, 准教授 (10646946)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 中河與一 / 浪漫主義 / 全体主義 |
研究実績の概要 |
本研究は、1948年に公職追放された中河與一(1897-1994)の恋愛小説「天の夕顔」(1938)が、その発表から映画化(1948)を経て1950年代半ばまでの長期に亘り、〈天の夕顔ブーム〉と呼びうる現象を惹起したことの意義を考察するものである。 平成29年度の実施計画は、中河の理論面に関する発言を見ていくことで、中河の芸術理論の変節を追跡するとともに、その芸術理論が実作へと応用されていく様態を分析することであった。 この計画に基づき、1935年頃より提唱されることとなる芸術理論である「偶然文学論」が醸成され、それが中河の芸術理論としての「浪漫主義」「全体主義」という主張へと変節していった経路について調査・分析した。具体的には、〈初期偶然論〉と呼称することも出来る中河の芸術理論である「形式主義論」が提唱された1930年前後から1935年前後にかけての思考を追跡した。 また、芸術理論の実作への応用の様態を観察するため、中河の小説「二千六百八十二哩」(1930)、小説「ゴルフ」(1931)、小説「愛恋無限」(1935-36)のテクスト分析を進めると同時に、同時代評の収集・解析を行った。また小説の思想的背景となっている宇宙物理学や北米への日系移民に関する文献、中河の古典回帰の動向と連動して言及が増加する日本の和歌に関わる研究などについて調査・分析を進めた。 また、本研究期間の最終年度に向けて、小説「天の夕顔」(1938)・映画「天の夕顔」(1948)の同時代評(宣伝広告・映画評を含む)の調査・収集を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・平成29年度に予定していた、偶然文学論が醸成されるに至る経路についての調査・分析をすることが出来た。 ・北米への日系移民に関する文献や、北米における排日運動に関する文献に対する調査を進めることが出来た。 ・本研究期間の最終年度に向け、小説「天の夕顔」(1938)の戦後における映画化周辺の文献調査を開始することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
小説「天の夕顔」(1938)・映画「天の夕顔」(1948)の同時代評(宣伝広告・映画評を含む)の調査・収集を行い、戦前/戦後にかけた〈天の夕顔ブーム〉と呼びうる現象について考察する。同作の大衆的人気の獲得、全体主義的文言の度重なる加筆/削除、中河の公職追放、映画化(及びクレジットからの原作者名の削除)、これらの複合的要因により、評価の質は大きく変化していったと考えられる。異本を収集し本文校異を行うことで、いかなる文言がどの段階で加筆/削除されたかを調査し(映画を含む)、それに同時代評の質的変容を重ね合わせることで、人々の「期待の地平」を測定したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度に研究を予定していた範囲に係る書籍・雑誌記事・新聞記事等の収集に際し、「図書館向けデジタル化資料送信サービス」(国立国会図書館)や本務校の文献複写・現物貸借サービスを利用することで、旅費を削減することができた。また、その他備品等についても、必要な範囲を超えた使用を控えた。 平成30年度以降は、同時代評(宣伝広告・映画評を含む)の調査・収集を中心とした研究となるため、調査対象及び範囲のさらなる拡大が予想される。それにともない、国立国会図書館等に赴く旅費として使用するとともに、関係図書・資料の文献複写費として使用する。
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