研究課題/領域番号 |
15K16684
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
竹島 一希 熊本大学, 社会文化科学研究科, 准教授 (10733991)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 古今伝授 / 神道 / 東常縁 / 宗祇 |
研究実績の概要 |
狭義の古今伝授は、文明3年(1471)に、東常縁が宗祇に二度にわたって『古今集』の秘説を伝授したことに始まるとされる。そこで、本研究は「古今伝授史における神道的要素」と題して、東常縁段階の古今伝授がそれまでに成立していた神道諸派(両部神道、山王神道、伊勢神道等)をどの程度摂取したかを考察する。 平成27年度は、東常縁関係の資料を収集し、研究対象を明確化することから始めた。先行研究で東家流の古今伝授資料とされている資料には、『古今涇渭鈔』(常縁→東氏胤、京大本他)、『古今秘伝集』(常縁→頼数→素純、書陵部本他)の両注釈書があるが、さらに今回、従来ほとんど知られていなかった資料が判明した。神宮文庫『大中臣祓』(神宮古典籍影印叢刊3『神宮儀式 中臣祓』〈皇学館大学・1983年〉)である。本書は、奥書によれば、享徳8年(1454)に讃岐国石川郷金光寺の賢円が常縁に伝授したものである。中臣祓とは、大祓の際にとなえられた祝詞である大祓詞を改変したもので、陰陽道、伊勢神道や吉田神道でも重視され、秘伝や注釈書が形成されていった。本書に注目した東常縁研究、広くは国文学研究は見えないが、それは本書が中臣祓、及びその秘伝しか記さないからである。だが、『古今秘伝集』によれば、康正1(1455)に死去する堯孝に、常縁はその死の直前まで古今伝受していた。これは、『大中臣祓』の伝授が、まさに古今伝授の最中になされていることを示している。さらに調べると、古今伝授の完成形ともいえる「当流切紙」(三条西実枝→細川幽斎、書陵部)の一部にも、『大中臣祓』が引用されていることが判明した。つまり、常縁が伝受した『大中臣祓』は、いつのころからか古今伝授の一部に組み込まれているのである。ここに、古今伝授と神道秘伝との融合がはっきりと看取できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、東常縁に関係する資料の収集に努めた。先行研究で指摘されている注釈書類はもとより、それ以外の資料もできるかぎり収集したが、その中に先述の『大中臣祓』があった。調査すると、この『大中臣祓』こそ古今伝授と神道との関わりを明らかにする資料であることが判明し、本研究課題にとっての研究対象が明確になった。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は引き続き『大中臣祓』を精査し、その伝播や流派による相違点、古今伝授切紙との異動などを通して、本研究の課題である古今伝授史における神道の流入を考察したい。 大祓詞(中臣祓)は、諸神道で重視されたために、流派ごとに独自の本文を持っている。詞の細部を改めることにより、流派の独自性=秘伝性を高めようというのである。そこで、中臣祓の諸本を当たり、『大中臣祓』がどの流派に属しているのかを検討する。その一方、古今伝授切紙を収集し、中臣祓の置かれている位置、その展開などを考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
若手の科研費申請者のみが応募資格を持つ学内の競争的研究費に応募し、それを並行して獲得することができた。ただし、この研究費は一年間のみの、繰り越し不可の研究費である。そのため、研究課題の遂行にあたり、そちらを優先的に使用し、科研費は次年度のために取っておくこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は、計画書に記した学外調査に赴く時間があまり取れなかった。平成28年度は、初年度に赴く計画であった宮内庁書陵部、広島大学等を訪問し、資料調査に努めたい。
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