本来2015年、2016年の2カ年に渡る本研究課題を、2017年まで1年間延長した主な理由は、熊本地震による業務多忙化のため、企図していた調査を遂行できなかったからである。 まず、研究成果として、4月に「東家流の神道」(「国語国文」第86巻第4号、pp.228-240)を公刊した。享徳三(一四五五)に東常縁が賢円から伝受した『大中臣祓』(神宮文庫)が、常縁によって切紙の形に書き換えられ、古今伝授切紙中の一通として、常縁、宗祇以下に伝わったことを指摘した。また、『大中臣祓』の内容から、常縁段階の古今伝授は両部神道に基づいており、宗祇以降のものと質的に区別すべきことを論じた。 2017年度の最大の目的は、広島大学への資料調査であったが、2018年1月に当地へ趣いた。20冊近くを調査したが、中でも『古今集真名序注』(国文(N)2341・ワカ11)は、三条西家古今集注釈書集成の一冊とされる。三条西家古今集注釈書集成とは、東京大学、宮内庁書陵部、広島大学に分蔵される『古今集』全巻の注釈で、また三条西家三代(実隆・公条・実枝)に渡る注釈活動の精髄であることが、武井和人「三条西家古今学沿革資料襍攷―実隆・公条・実枝―」(『中世和歌の文献学的研究 』)に指摘される。但し、詳細に検討すると、広大本のみ細字片仮名交じり注の分量が異常に少ない点など、東大本、書陵部本との違いを見出すことができる。これは広大本が真名序の注であることに起因するのであろう。また、三条西家古今集注釈書集成は、『両度聞書』(常縁→宗祇)、『古聞』(宗祇→肖柏)の引用を専らとし、本書独自の部分は多くはない。和歌に政教主義的な解釈を行う「下心・裏説」も両書の祖述にとどまっており、そこに吉田神道の要素を看取できない。吉田神道の要素をはっきりと現す「当流切紙」(実枝→細川幽斎)との整合性に関する考察を、今後の課題としたい。
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