平成30年度は近代文学史における「視覚性」の問題の探求の射程を広げ、「日本近代文学」が「世界文学」の文脈の中で形成されてきた事実を内在的に明らかにするために、19世紀末以降特に戦後の日本語テクストが描いてきた「世界」イメージの変遷を捉える目標を新たに付加したが、平成31年(令和元年)度は、その点に関しての研究を計画通り進めた。いまだ部分的ではあるが将来の発展的研究の土台となる成果を、三学会(日本近代文学会・昭和文学会・社会文学会)合同国際研究集会における個人発表(「現代文学と意志の問題―非形成的な「世界」へ向かって―」、令和元年11月24日)、および日本比較文学会北海道支部大会(「「世界文学」論の時代の日本文学―「世界」概念とその表象の変遷を追って―」、令和元年11月30日)における講演の二つの機会において発表した。また、依頼論文のため本研究課題に直接対応しているわけではないが、その成果を多分に反映した論考として「坪内祐三『慶応三年生まれ 七人の旋毛曲り――漱石・外骨・熊楠・露伴・子規・紅葉・緑雨とその時代』再読」(『ユリイカ』令和2年5月臨時増刊号)および「現代小説と感情移入の機制―理論的共生としての「演技」の系脈―」(『昭和文学研究』令和2年10月予定)を寄稿した。とりわけ後者によって、「世界」イメージの探求を、当初の(ジャンル横断的な)「視覚性」や「身体イメージ」の問題へと循環的に接続する道筋を見出したことは、本事業を通して行ってきた各個研究の集大成的な意義を持つ成果といえる。
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