本研究は、近代文学の様式と写真・映画・漫画・アニメといった近代特有の視覚表現の発展との間には密接な関係があるという考えにもとづき、具体的な作品に現れている「視覚性」の分析を通して近代文学史を読み直す作業を行った。二〇世紀前半の作家たちによる「共感」の美学に対する問題意識と映画の登場が切り開いた潜在意識的〈運動〉の心理への関心とが協働していたこと、戦後文学に散見される「無」の視覚的表現と実存哲学に基づく「想像力」論の流行との関係、現代文学特有の主体性の描かれ方とビデオゲームの登場による虚構世界の経験の仕方との繋がりなど、複数の新しい主張を行った。
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