研究課題/領域番号 |
15K16687
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
鈴木 貴宇 東邦大学, 理学部, 講師 (70454121)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 占領期 / プランゲ文庫 / 社会心理 / 表象分析 / 戦後日本社会論 / 青空 / 労働組合 / サラリーマン |
研究実績の概要 |
2015(平成27)年度は、研究のスタート年ということもあり、研究遂行にあたり必要なデータベース(文生書院が運営する「20世紀メディア情報データベース」)はじめ、戦後復興期に発行された建築雑誌など、資料収集と研究環境の整備が主となった。そのため、刊行物などの成果は今年度は出せなかったが、収集資料の整理は完了することができた。具体的にはプランゲ文庫が所蔵する占領期の雑誌刊行物の中から「青空」および「サラリーマン」に関する記事の総本数(前者は約3000本、後者は約300本、合計3300本)の把握と、その傾向である。膨大な数に及ぶ記事の分析は2016(平成28)年度より行うが、その傾向は次の通り: 第二世界大戦の敗戦に伴い訪れたGHQによる占領期を象徴するキーワードとして、「青空」は頻繁に当時の言説空間に用いられる。その最も大衆的な例は、戦後の解放を象徴する流行歌として知られる並木路子歌う「リンゴの歌」であるが、その歌い出しは「赤いリンゴにくちびるよせて/黙ってみている青い空」である。この例からもうかがえるように、「青空」は、敗戦直後にあっては「敗戦により生じた廃墟(何もない、という虚脱感)」と「これから始まる戦後復興への希望(未来につながる青空)」という、両義性を抱えた表象であった。それはまた、敗戦がもたらした多くの死者への追悼と、戦後復興へ向かう敗者たちの希望というより巨視的な「生と死」の両義性とも呼応すると考えられる。この特徴を反映し、言説レベルにおいては「青空」はまず、労働組合の機関誌(日本水産株式会社捕鯨部労働組合)がその標題に用いるなど、組合文化の場に顕著といえる。また、児童書(埼玉県熊谷市の青空社)にも頻出しており、これは暫定的な見通しとしては、「戦後民主主義の担い手」(労働者と子供)たちに託された表象の一つが「青空」であったのではないかと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では、博士学位申請論文の執筆と刊行を当該年度に終了させる目論見だったが、二年目も引き続き行っていることから「予想以上の進捗」とは言い難い。しかしながら、最優先事項であった占領期雑誌記事索引の収集と整理には着手できたことから、大幅な遅れは見られていない。また、本研究と隣接するテーマでの原稿執筆の機会に恵まれたため(「文学」岩波書店、2016年5月刊行予定)、占領期を経て高度経済成長期に隆盛を迎える「労働組合」とその文化に関する知見を多く得たことは、予想外の成果であった。この執筆を通じて、法政大学大原社会問題研究所が所蔵する雑誌の多くは、本研究とも密接な関係を持つことがわかったことから、今後、調査の進捗は国内にあっても最小限の支障で済むことが見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
二年目となる今年度は、次の二つが本研究の主な目標となる:① 博士学位申請論文の執筆と刊行 ② 早稲田大学20世紀メディア研究所と同大学中央図書館共催の占領期雑誌関連シンポジウムにて研究発表。 ①については、昨年度の成果と進捗を踏まえ、今年度内の完成に向かって遂行中である。②については、占領期研究の第一人者であった故・福島鑄郎氏のコレクションが早稲田大学中央図書館に寄贈されたことから、その意義を周知させるべく今春に企図された。2016年9月に展示とシンポジウムを開催予定であり、申請者はワーキンググループに所属し調査に参加している。また、今年の夏にはプランゲ文庫の現地調査予定であり、初年度に着手した資料整理と分析を並行して更なる成果が期待するべく研究に臨んでいる。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時には、初年度にメリーランド州立大学図書館プランゲ文庫(University of Maryland Library, Gordon W. Prange Collection)への現地調査を予定していたため、今回の変更が生じた。渡航を次年度に変更した理由は、初年度に国内での資料調査を十全に行う必要があるとの判断による。
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次年度使用額の使用計画 |
すでに現地にて閲覧が必要な資料の把握と整理が終わっているため、今年は夏期に10日前後の現地調査を予定している。当初の計画では、一週間前後の渡米調査に必要な予算であったが、2015(平成27)年度に使用しなかった旅費を計上することにより、現地調査に15日前後使う余裕が生じた。よって、2016(平成28)年度は、当初より予定していた旅費に加え、2015(平成27)年度に使用しなかった旅費を計上する。
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