2017(平成29)年度の主要業績は大別して次の③点となる:① 銀行労働運動の機関誌復刻 ② ①に関する論文執筆 ③ メリーランド大学図書館プランゲ文庫および米国国立公文書資料館での資料調査。以下、各項目について概要を示す。 ① 占領期の1951年に全国銀行従業員組合連合会(全銀連)より創刊された機関誌『ひろば』を不二出版より2018年5月~6月より復刻、その監修と解説執筆を担当する。同誌面の初期は、元兵士の記憶を有する1920年代生まれの銀行組合員によって編集されていることから、「戦争」の記憶と、そこからの脱却、新しい社会を構築することへの希望などが「青空」に託された詩編の掲載を確認することができる。一つの産業を横断した組織による発行という性格もあり、普遍的な分析がこの作業により可能となった。 ② ①に関連する論文2本を年度内に発表した。 A「詩を読む銀行員たち」(坪井秀人編『戦後日本を読みかえる』臨川書店、2018年出版予定、入稿済み)は、全銀連の文化運動として特筆される『銀行員の詩集』分析を試みたもの。この論文により、当時の文化運動では勤労者たちの自発的な創作行為を促すために、多くの職場で「勤労詩」運動が提唱されるが、現場産業に携わる者たちの作品と比較した際に、「青空」に憧れる心性が銀行労働者のほうが顕著だと指摘できることが明らかとなった。 B 「銀行労働運動における機関誌の意義と考察:機関誌『ひろば』を事例として」(『Intelligence』第18号、刊行済)。全体見取り図としての性格を持つ論文であり、この論文を執筆したことによって、同誌の分析には女性行員と地方銀行の労組運動が重要なことが明らかとなった。 ③ 継続調査であるが、①②で明らかとなった当時の労組による文化運動の具体的なイメージを補強する資料として、当時の社会世相を撮影した写真の調査と分析を今後も進めていく。
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