平成29年度は、最終年度ということもあり、これまでに収集してきた資料の整理・分析し、成果発表に向けてのまとめを進めてきた。また、特に当該時代についてのトピックスとして、2方向から研究を進展させた。一つは、禁裏における女性歌人の活動についてである。具体的には、女性歌人による連歌等聯句活動について調査を進め、後土御門~後奈良天皇期の女官による物語書写に関する調査を行った。これまでに判明した資料を天理大学付属天理図書館・陽明文庫・京都学歴彩館において調査し、詳細な情報をまとめた。その結果を「陽明文庫蔵「後柏原院宸筆其外寄合書『源氏物語』」考」として、陽明文庫古典資料研究会(2017.10.15於陽明文庫)にて発表し、論文発表に向けての準備を整えた。この研究により、今まで確実な資料の無かった後柏原天皇期後宮女官の筆跡を報告し、今後の研究の基礎資料となることを考察した。また、禁裏における注釈活動研究の一環として、三条西実隆による『伊勢物語』注釈書である『伊語聴説』の翻刻を発表した(小山順子(単著)「陽明文庫蔵『伊語聴説』翻刻と解題」『調査研究報告』第38号、国文学研究資料館、2018年3月)。 当該研究が当初目指した、後土御門~後奈良天皇期全般を概括するという目標には届かなかったが、これまでほとんど注目されてこなかった当該時代における女性歌人の活動と残された資料の整理を行い、この分野における研究の先鞭を付けたこと、および当該時代禁裏文芸活動の特質のいくつかを抽出しえた点が、当該研究の意義である。
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