研究実績の概要 |
今年度の研究成果は以下のとおりである。 (1)まず英国小説の意識描写に関する文献収集を、近年出版された文体論・物語論関係の書籍を中心に行った。予想通り、最近の文献においても、意識描写を扱っているほとんどの研究が三人称小説(特に20世紀モダニストの作品)に集中していることがわかった。また意識描写を分析する際に、知覚レベル(作中人物の外の世界への知覚)と概念レベル(作中人物の内面にある感情や思考)の意識に分けて記述している先行研究も少ないことがわかった。小説の意識描写における本研究の位置づけを再確認することができたと思っている。
(2) 次に先行研究の中でも、特にStanzel, Cohn, Fludernik, Warner等の語りの理論及びBanfield, Galbraith等のダイクシス転移理論(視点の移動とダイクシスの関係)を基盤にして、暫定的ではあるが、一人称自伝小説における意識描写と言語表象の関係を分析するための枠組みを構築した。さらに、物語る「私」が、回想中、体験する「私」のどのレベルの意識(知覚・概念レベル)を再現しているのか記述するために、異なるレベルの意識の言語指標をそれぞれ示した。そうすることで、物語る「私」が体験する「私」の過去の体験をいかに言語的に再現しているのか分析する方法を設定した。
(3)上記の理論的枠組みを用いながら、『大いなる遺産』と『ヘンリ・エズモンド』において、物語る「私」が過去(特に子供時代)のトラウマ体験をいかに再現(追体験)しているかを国際学会(Poetics and Linguistics Association)で発表した(2015年7月、ケント大学)。またその発表内容をProceedingsに投稿し、掲載されるに至った(http://www.pala.ac.uk/uploads/2/5/1/0/25105678/nakao_masayuki.pdf)。
|