本研究では、近年の物語論・文体論の知見を基に、一人称自伝小説の意識描写を分析する理論的枠組みを再考・再構築した。1.自伝小説における語りの「媒介性」の概念と語りのモードの問題を再認識しつつ、物語る「私」と体験する「私」の内的緊張関係が、回想形式の語りに反映される過程を図式化した。2.再現される意識のレベル(知覚・概念)とその言語形式の違いに着目することで、登場人物の体験の「直接性」をより具体的に記述できる方法を提示した。3.この枠組を基に、ディケンズとサッカレーの自伝小説を扱い、登場人物の印象的な体験が、異なるレベルの意識描写を通して、いかに追体験的に再現されているかを分析した。
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