本研究ではマーク・トウェインの主要作品において、男性感傷・共感がどのように機能するかについて、「境界線」をキーワードにしながら考察した。男性感傷・共感に関しては、Mary ChapmanとGlenn Hendlerが編集したSentimental Menというアンソロジーが出版されて以来、注目されるようになってきているが、トウェインに関しては言及がほぼ存在しない。しかしトウェイン作品において主要男性登場人物の主体形成に、他者への共感が大きく関わることを指摘し、本研究を遂行した。 最終年度は、トウェインの代表作『ハックルベリー・フィンの冒険』の主人公ハックの感情に焦点を当てた。31章でジムに共感したハックが、自身の貧乏白人という出自を引き受け、それと同時に自身とジムとの間に引いていた人種上の境界線を取り消し、貧乏白人と中産階級の白人を分断する境界線を引き直し、つかの間とは言え、ジムに寄り添う決断を下していることを注目した。 この研究成果は、2015年7月にClemens Conference(於・ミズーリ州)で行った口頭発表、"Was Huck White?:The Racial Boundaries and the Question of Class in Adventures of Huckleberry Finn"に大幅な加筆・修正を加えて論文化し、2018年のMark Twain Studies Vol. 5に掲載される予定である。
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