研究課題/領域番号 |
15K16708
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研究機関 | 安田女子大学 |
研究代表者 |
田多良 俊樹 安田女子大学, 文学部, 准教授 (40510467)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アイルランド大飢饉 / 記憶 / 移民 / 帰郷 / 離散 / アイルランド / カナダ / アメリカ |
研究実績の概要 |
平成28年度は、前年度に取り組んだ Jane Urquahrt の小説 Away に関する研究をさらに深化させ、日本英文学会中国四国支部第69回大会にて口頭発表した。この発表では、主人公の母方4世代の来歴を遡行していくという小説の体裁自体が、アイルランド大飢饉の記憶を辿りなおすことと構造的な相同性を保持していることを指摘し、祖国への想像上の帰郷が、アイルランド系カナダ人のアイデンティティ形成にとって重要な意味を持っていることを明らかにした。 また、本年度は、イングランド生まれのアメリカ在住作家である Ann Moore の Gracelin O'Mally Trilogy の研究も進めた。イングランド人として、アイルランド大飢饉の加害者側に連なる Moore が、21世紀になってもなお、アイルランドからアメリカへの脱出という正統的な離散物語を書いているという点に、歴史修正主義的な動機を見出そうとしてみたが、現在のところ Moore の3部作において、アイルランド大飢饉は歴史的背景としてのみ扱われていると言わざるを得ない。今後は、アイリッシュ・ディアスポラ研究を参照して、研究内容をブラッシュアップしていく予定である。 さらに、アイルランドからの脱出というモチーフを扱うにあたって、イングランド人作家とアイルランド人作家のあいだに違いがあるかどうかを考えるため、James Joyce の A Portrait of the Artist as a Young Man におけるジャガイモの象徴性を再考し、これをIASILにおいて口頭発表した。ポスト大飢饉世代のアイルランド人青年が自己実現のためにアイルランドを脱出するとき、大飢饉の記憶が前面に出てきていないという興味深い事実が、イングランド人作家との違いとして明確になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
アイルランドからの脱出というモチーフを扱うイングランド人作家とアイルランド人作家のあいだの差異を検討するために、Joyce の A Portrait of the Artist as a Young Man を考察したことは、Ann Moore 研究の副産物であったが、国際学会で発表できた点で本研究課題の深化につながったと言える。 このような当初予期していなかった展開もあったものの、平成28年度の進捗状況は、以下の3つの理由で、「やや遅れている」と評価せざるを得ない。第1に、Jane Urquhart に関する研究はほぼ完了しているが、それがまだ論文という形に結実していないこと。第2に、Anne Moore に関する研究については、小説の精読は完了したものの、それらに関する先行研究がほぼ皆無に等しいため、先行研究の調査と収集を継続せざるを得ない状況であること。そして第3に、昨年度からの計画であったカナダ・オタワでの一次資料調査が本年度も実施できなかったこと。 以上のように、平成28年度研究実施計画のうち、未了のものが残っているため、進捗状況はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は速やかにJane Urquhartに関する研究を論文化し、適切な学術媒体に発表する。また、その際にはカナダ・オタワでの一次資料収集を実施し、その成果を反映させたい。この収集作業は平成29年度の夏季休業中の実施を目指す。 さらに、Ann Moore 研究は先行研究の収集を継続し論文化を目指すが、もし万が一、質・量ともに十分な学術研究が集まらない場合、本研究課題の最終年度まで持ち越すことも検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究対象であった Ann Mooe に関する先行研究が想定外に少なく、そのため研究図書の購入費が残った。
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次年度使用額の使用計画 |
Mooreに関する先行研究図書の継続的に調査・収集する。これに伴う図書購入費に充てる。
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