2019年度は、前年度までの研究成果を踏まえ、Colum McCann の小説 TransAtlantic に関する考察を、国際学会 Interenational Association for the Studies of Irish Literatures (IASIL) の年次大会において口頭発表した。この小説は、1919年の大西洋無着陸飛行と、1948年のアイルランド大飢饉、および1998年の北アイルランド和平という3つの歴史的事件が絡み合う歴史改変小説で、大飢饉のパートでは大飢饉初期に実際にアイルランドを訪問した解放奴隷 Frederick Douglass が登場する。そこで、小説中で Douglass が見せる大飢饉への見解と、彼自身が現実に出版した手記におけるそれを比較して、両者の差異を検討した。その結果、奴隷制廃止運動にイギリス系アイルランド人からの支援を取りつけるために、イギリス支配下で飢餓に苦しむアイルランド人のことを無視するしかないという Douglass のジレンマが、TransAtlantic という物語においては強調されていることを指摘した。 また、今年度は、これまでの大飢饉に関する研究成果の代表例という位置づけで、『ジョイスへの扉―『若き日の芸術家の肖像』を開く十二の鍵』という論集に論文を発表した。
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