本研究は、作家エルフリーデ・イェリネク(1946年生)をモデルケースとして、オーストリア文学における第二次世界大戦体験者の後継(子・孫)世代が、自ら体験しえなかった災厄について語る方法を、「非-体験の災厄の語り」と位置づけ、その語りの一つのモデルを提示する試みである。在欧のイェリネクが東日本大震災への応答として執筆した演劇『光のない』(2011)をはじめ複数テクストを扱い、時間的・地理的に隔てられた災厄、即ち、メディアを介して(のみ)なしえた災厄の経験に取り組む文学的方途の諸相について、その一端を明らかにした。
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