19世紀前半の奇形学理論がやがて犯罪問題と結びつき、19世紀後半のデジェネレッサンス理論(精神的・道徳的疾患は悪化しながら遺伝するという理論)へとたどり着いたことが、平成27年度の研究を通して明らかになった。 これに引き続き平成28年度は、まず1860年代の狂人法をめぐる議論に注目し、そのなかで次第に確立されていったデジェネレ(変質者)の肖像が、エクトール・マロ『義兄弟』とエミール・ゾラ『プラッサンの征服』においてそれぞれどのように反映されているのかを、5月の日本フランス語フランス文学会春季大会(学習院大学)において発表した。8月にはフランスで関連文献を収集・調査するとともに、フランス人研究者たちとの報告と意見交換を行った。9月には論文「精神障害者と犯罪者─デジェネレッサンス理論の形成過程に関する一考察─」において平成27年度からの研究成果を発表した。 10月には、平成27年度から継続していた翻訳『犯罪・捜査・メディア─19世紀の治安と文化─』(ドミニク・カリファ著、原題『19世紀の犯罪と文化』)が法政大学出版局より出版された。本書には、原書になかった図版や、文学との関わりについての解説も載せたが、それらの一部は夏の渡仏の折に準備したものである。また、本書の出版と合わせて、11月には著者カリファの講演を所属機関にて企画し、当時通訳も務めた。この翻訳と講演会企画により、文学と犯罪問題という当該分野を一般にも広めることができた。 12月には日本・ベルギー修好150周年記念シンポジウム(東京理科大学)において、精神医学者エチエンヌ・ド・グレーフの理論と彼の執筆した近未来小説を比較する研究発表を行い、日本・ベルギー双方の研究者たちと意見交換をした。この発表の成果は平成30年に共著の形で出版される予定である。
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