本研究課題はフランス語圏カリブ海文学にまつわる文芸誌の調査を中心に、従来の文学史的パースペクティブ(ネグリチュード、アンティル性[カリブ海性]、クレオール性)とは異なる文学の歴史の語り方を探究することを目ざした。最終年度では、研究期間全体を通じて分析と執筆を継続してきた本研究の主要課題であるエドゥアール・グリッサンの雑誌『アコマ』全5号に関する論文の完結編を作成することを第1の目的とし、その成果を『人文論集』57号に掲載した。 いま1つ注力したのは、セゼールの雑誌『トロピック』以前の両大戦間期パリにおける黒人意識の運動を雑誌を通じて辿りなおすことである。その成果としてソルボンヌ大学の国際シンポジウム「パリ・クレオール」においてModernite noire chez les etudiants et intellectuels antillais a Paris durant l'entre-deux-guerresと題した口頭発表をおこなった。 2015年度から開始した本研究期間全体を振りかえり、本研究が提示することのできる認識は、カリブ海文学の横断性である。本研究はカリブ海のフランス語圏の文芸誌研究に限定したものだったが、セゼールの『トロピック』以降、カリブ海の文学圏は、スペイン語、英語、フランス語(あるいはクレオール語)という複言語空間の相互作用のなかで展開されてきたということである。その意味で改めて大きなテーマとして現れるのはカリブ海文学における「アメリカス」である。本研究期間ではハイチの文芸誌の研究にまでは広げることができなかったが、研究期間に収集した雑誌や詩集の分析は、2019年度から新たに開始する研究課題「 両大戦間期パリにおける環大西洋文学の形成をめぐる語圏・地域横断的研究」において継続・発展させる予定である。
|