最終年度の目的のひとつは社会的文脈において、オウィディウス『変身物語』を中心に文学や神話の意義を解明すること、また研究の総括をおこなうことであった。紀元前後のローマ社会とりわけ宗教改革との関連において、神話・文学が当時の社会の再構築においてどのような役割を担っていたかを、研究期間全体をとおして実施した研究・調査をもとに、明らかにした。 研究期間をとおして中心としてきた『変身物語』に関する成果は、学会誌において発表した。叙事詩と非叙事詩が混交する文学形式の新たな確立に焦点をあてることで、この作品の特質が解明された。また、その成果の一端は、広く一般に読まれやすい雑誌および書籍(共著)においても発表した。本研究の中心となる古代ローマ社会における文学や神話の役割については、シンポジウムにおいて発表するとともに、学術雑誌に掲載された。また、ローマの神話・宗教・文学の独自性と継続性を明らかにするために、古代ギリシアおよびエトルリアのローマへの影響について研究をおこった。ギリシアとの関係については、近く共著論集において成果を発表する予定である。また、エトルリアについては、当初予想していた以上に密接な関連があることが明らかとなった。 歴史文献資料、考古学資料、および図像資料等を収集するために、イタリアへの実地調査をおこなった。とりわけ、エトルリアについて、現地で古代ローマの研究者や学芸員と意見交換し、成果を得ることができた。 いくつかの文学作品を中心に具体的に文学の役割について考察し、一定の成果を得ることができたために、本研究はおむね順調に遂行したと判断できる。そしてその成果により、ラテン文学の社会的文脈における解釈の可能性を提示することができた。
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