研究課題
初年度に当たる今年度は、ポーランドとドイツ、ハンガリーに渡航し、文献資料の収集にあたったほか、ホロコーストの記念碑や博物館を現地調査した。国内外の学会を通して、海外の研究者との連携も始めた。ポーランドでは、1940年代に国立博物館化された絶滅収容所のうちトレブリンカを見学し、出来事の記憶の現状を現地調査した。10年ほど前に訪問した時に比べ、過去の写真資料や解説を現場に展示することで、痕跡のない現場で何が起きたのか、想起させる作りになっていた。小さいながらも博物館も作られ、発掘調査の状況がパネルで解説されていた。ベルリンではホロコーストやナチス・ドイツ関連の記念碑を見学した。ハンガリーでも同様に、2000年代以降作られたホロコーストやナチス・ドイツ関連の記念碑とそれに対する反応を調査した。本研究は、ポーランドにおけるホロコースト表象の系譜をたどるものであるが、この渡航調査を通して、ポーランドの特殊性を浮かび上がらせるうえで、旧社会主義圏の東欧という枠組みで比較検討することが必要かつ有効である、という考えに至った。今後は調査対象を近隣の東欧諸国にも広げていく。日本では、1946年にポーランドで刊行され、ポーランドにおけるホロコースト文学の古典であるゾフィア・ナウコフスカの短編集『メダリオン』を翻訳し、解説をつけて刊行した。20世紀ポーランドの代表的演劇作家、タデウシュ・カントル生誕100周年記念の一環として、シンポジウムpart2「カントルと各文化圏における文学・演劇」を企画し、カントルの代表作「死の教室」(1975)を両大戦間期の作家スタニスワフ・イグナツィ・ヴィトキェーヴィチの戯曲「脳腫瘍氏」との比較を通して読み直し、口頭発表した。「死の教室」において、戯曲「脳腫瘍氏」の一エピソードがホロコーストの物語として再解釈され、受容されていることを指摘した。
2: おおむね順調に進展している
夏季休暇を利用したヨーロッパ渡航と資料収集、現地調査がスムーズに進んだ。国内外の学会参加を通して本研究に関係する海外の研究者とも多く知り合うことができ、海外渡航時には関連イベントや講義に参加することができた。次年度以降、連携を本格化させる準備が整った。本研究の基礎的資料であり、ポーランドにおけるホロコーストの記憶構築を考えるうえで欠かせないナウコフスカの短編集『メダリオン』(1946)を日本語に訳すことができた。
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)に採択され、1年間のワルシャワでの在外研究の機会を得た。ワルシャワでホロコースト文学研究の専門家と共同研究を重ねながら、現地にいる利点を最大限に活用し、東欧やイスラエルなどのホロコースト関連施設、記念碑をこの1年で集中的に調査し、資料調査も行う。成果は随時口頭、論文として発表する。
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