本研究では、中国の漢魏六朝から中唐における「隠逸空間」をめぐる文学的表現について考察した。 南朝梁・西魏・北周に仕えたユ信は、北朝に移り間もない時期に、隠逸の住まいを描く「小園賦」を作った。先行する潘岳・陶淵明・謝霊運・沈約らの作品と比較すると、「小園賦」が描く空間は際だって閉鎖的であり、外部から孤立している。地縁・血縁から切り離されたユ信の特異な状況が、このような隠逸空間の造形に深く関わっている。中唐の詩人白居易は、ユ信と同様閉鎖的な「小空間」を築いた。両者を比較すると、隠逸空間をどのような理念によって支えるかという点で、時代による大きな差違を見出すことができる。
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