最終年度に取り組んだ研究課題は二つある。 1つ目は南朝斉梁時代の「連珠」である。応募者の過去の論考では蕭綱の臨終作品を取り上げたが、その中には連珠作品が含まれていた。これは政治に対する諷刺や道徳の箴言を述べる美文である。梁代にこのジャンルの制作が流行したが、その作者の中には蕭綱の文学集団のメンバーも含まれる。今年度、梁代の連珠制作の状況を調査し、蕭綱の文学集団メンバーの連珠作品に対象を絞って精密な読解を行い、他の作品と比較した。その結果、興味深い発見が確認されたので、それを近日中にまとめ、発表する予定である。 2つ目は同じく斉梁時代の「戯題詩」である。南朝斉梁時代の艶詩(以下、斉梁艶詩と略す)の特徴の一つとして遊戯性が挙げられ、それらの詩歌群が厳しく批判される原因となっている。しかし、斉梁艶詩の遊戯性の実質についてはまだ研究の余地が残されている。これは本研究を補う研究対象である。そこで、今年度は上記の連珠研究と平行して、「戯」という語を題名に持つ作品(以下、谷口真由実氏の先行研究に従って戯題詩と呼ぶ)の中で、蕭綱の文学集団のメンバーによる戯題詩を遊戯的艶詩の一例として取り上げた。その結果、梁代の戯題詩には、先行作品や常套的構成・内容を異なる視点から捉え直し、対象のある一面とは別の一面に焦点を当て、作品世界を再構築する技法が認められた。これはもはや文学的技法と呼べるものである。これらの作品の制作状況は不明であるが、現実を含む対象の新たな一面を描き出す豊かな文学的成果を戯題詩は残したと結論付けることができる。 最終年度を含む本研究期間全体を通じて実施した研究の結果、蕭綱とその文学集団のメンバーは、現実の様々な対象をそれぞれ複眼的に捉え直し、特徴的な表現技法を用いて新たな作品世界を再構築しようと試み、それらが艶詩に新鮮で豊かな実りをもたらしたことを明らかにすることができた。
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