研究課題/領域番号 |
15K16728
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
西出 佳代 金沢大学, 歴史言語文化学系, 准教授 (90733311)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ルクセンブルク語 / 統語論 / 動詞群の語順 |
研究実績の概要 |
2018年度は、本来であれば本研究プロジェクトの最終年度であったが、研究代表者の産前産後休暇及び育児休業取得や体調面での都合上、研究計画を大幅に変更する必要があった。まず、育児休業復帰後の2020年度の研究期間延長を申請した。復帰後1年間の研究期間が得られることを前提に、2018年度は主に一次資料のデータ入力や分析、参考文献の精読、メール等による母語話者へのパイロット調査を行った。 分析を行った一次文献は、ルクセンブルク国内の多くの賞を受賞するなど母語話者からの評価が高いルクセンブルク語現代作家の一人 Jhemp Hoscheit の作品や、19世紀のものではあるがルクセンブルク各地方の方言が使用される Michel Rodange の作品 “Renert” (1872)、通時的な分析も視野に入れるために扱った13世紀後半の叙事詩 “Yolanda von Vianden” である。 2018年度に扱う予定だったテーマは、文末(右枠)における動詞群の語順であった。ルクセンブルク語の文末における動詞群は、過去分詞を支配する助動詞は常に過去分詞に後続するが、不定詞を支配する助動詞は不定詞に後続する語順だけでなくそれに先行する語順も許容される。この現象を、何を支配する助動詞であっても常に後続するドイツ語や、常に先行するオランダ語など、他の西ゲルマン語と比較・対照するため、これらの言語やその方言についての文献を中心に、類似の統語現象や関連すると思われる現象を扱った文献の精読を行った。また、ルクセンブルク語語学教師や翻訳家などを職業とする母語話者に対して、同現象に関するパイロット調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、ルクセンブルク語における動詞類を形態的、意味論的、統語的に分析し記述することを目的としている。 2015年度は、形態的な側面を中心に扱い記述を進めた。主に扱ったテーマは、動詞類の母音交替とウムラウト及び接辞である。2016年度は意味論的な側面を中心に扱った。主に扱ったのは、「過去形の衰退」という現象と、助動詞 lux. ginn (give) の文法化である。2017年は、当初統語的な側面を扱う予定であったが、2016年度に扱った lux. ginn の文法化や現在の使用における多機能性を理解する上で、この助動詞と競合関係にあるもう一つの助動詞 lux. waerten/waerdenに焦点を当てて観察する必要があることがわかったため、これらの助動詞の分析を行った。2017年度までの間に、本来の研究計画の中で挙げたものの中で扱いきれなかったのは補文標識の屈折に関わるトピックである。このトピックは、動詞記述を行う本研究課題の中では周辺的なトピックであり、当初の研究計画においても進捗状況によっては本研究課題から除外するとしていたトピックである。そのため、2017年度までで、ルクセンブルク語の動詞類の形態及び意味論的側面に関する主要な分析と記述は概ね終えられていると言って良い。 2018年度は、2017年度に行う予定だった統語現象に関わる現象すなわち文末における動詞群の語順について、繰り越して扱うことを予定していた。同現象については、前項で述べた事由のため、計画に変更はあったものの順調に研究を進められていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
復帰後の2020年度に予定している課題は2つある。一つ目は前項でも触れた文末の動詞群の語順について分析することである。二つ目は、本プロジェクトの総括である。 一つ目について、2018年度は一次文献や参考文献にあたり、パイロット調査を行ったため、2020年度はそれを受けた現地調査を行い、その成果を学会等において発表したり、論文投稿を行ったりするなど、アウトプットにつなげることを目指す。 二つ目について、本研究課題はルクセンブルク語の動詞類を体系的に記述することも目標の一つとしている。学会や論文等で発表するのは個別現象が中心となるため、これだけではルクセンブルク語動詞類の全体像が見えてこない。まだ研究領域として新しいルクセンブルク語の動詞類を把握するためには、体系的な記述を行うことが不可欠である。体系記述を行う際に、学会発表や論文などでは取りこぼしてきた他の助動詞や現象などについても記述する予定である。2018年度に本来扱う予定であった不定詞や分詞についての記述も行う予定である。最終的には書籍の出版を目指し、各種助成金への応募を検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
産前産後休暇及び育児休業取得のため、2018年度に研究できる期間が1年よりも短くなった。また、体調面での都合上現地調査を断念せざるを得ず、そのための予算を使用することができなかった。 復帰後の2020年度に現地調査を行い、また研究を進めるための文献・資料を購入するなどして、研究を進める予定である。
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