研究課題/領域番号 |
15K16728
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
西出 佳代 金沢大学, 歴史言語文化学系, 准教授 (90733311)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ゲルマン語学 |
研究実績の概要 |
2020年度は産前産後休暇及び育児休業を経て、本プロジェクトの最終年度の研究課題に取り組み、プロジェクトを完結させる予定であったが、新型コロナウイルス感染症の影響により計画を大幅に変更することを余儀なくされた。 産休前の2018年度に扱う予定だったテーマは、文末における動詞群の語順であった。ルクセンブルク語の文末における動詞群は、過去分詞を支配する助動詞は常に過去分詞に後続するが、不定詞を支配する助動詞は不定詞に後続する語順だけでなくそれに先行する語順も許容される。この現象を、何を支配する助動詞であっても常に後続するドイツ語や、常に先行するオランダ語など、他の西ゲルマン語と比較・対照するため、これらの言語やその方言についての文献を中心に、類似の統語現象や関連すると思われる現象を扱った文献の精読を行った。また、ルクセンブルク語語学教師や翻訳家などを職業とする母語話者に対して、同現象に関するパイロット調査を行った。 2020年度は2018年度の調査を受け現地にて本調査を行う予定であったが、コロナ禍で海外出張が叶わず断念せざるを得なかった。そのため、急遽、研究テーマをルクセンブルク語と標準ドイツ語の話法の助動詞の比較に切り替えた。2017年度に扱った多機能の助動詞 lux. ginn を研究する中で、両言語における助動詞の意味領域が大きく異なることが明らかとなったためである。動詞類の体系記述を行う本プロジェクトでは、この問題は一旦保留して語順を含む動詞類の全体像をとらえることに注力する予定であったが、不測の事態により方針を変更してこちらの助動詞の問題を扱うこととした。特に注目したのは、推量、認識に関わる助動詞群の意味領域である(dt. werden/wuerde, moegen, koennen; lux. geif, kennen)。2020年度は通時的な観点で分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題は、ルクセンブルク語における動詞類を形態的、意味論的、統語的に分析し記述することを目的としている。 2015年度は、形態的な側面を中心に扱い記述を進めた。主に扱ったテーマは、動詞類の母音交替とウムラウト及び接辞である。2016年度は意味論的な側面を中心に扱った。主に扱ったのは、「過去形の衰退」という現象と、助動詞 lux. ginn (give) の文法化である。2017年は、当初統語的な側面を扱う予定であったが、2016年度に扱った lux. ginn の文法化やこれと競合関係にあるもう一つの助動詞 lux. waerten/waerdenに焦点を当てて観察する必要があることがわかったため、これらの助動詞の分析を行った。2017年度までの間に、本来の研究計画の中で挙げたものの中で扱いきれなかったのは補文標識の屈折に関わるトピックである。このトピックは、動詞記述を行う本研究課題の中では周辺的なトピックであり、当初の研究計画においても進捗状況によっては本研究課題から除外するとしていたトピックである。そのため、2017年度までで、ルクセンブルク語の動詞類の形態及び意味論的側面に関する主要な分析と記述は概ね終えられていると言って良い。 2018年度が本来のプロジェクトの最終年度であったが、研究代表者の産前産後休暇および育児休業取得のため研究期間を延長し、2020年度を最終年度とすることとした。2018年度の産休取得前は、統語現象に関わる現象、具体的には文末における動詞群の語順について、繰り越して扱い、一次資料の分析やメール等による母語話者へのパイロット調査を行った。それを踏まえて育休復帰後の2020年度は、動詞群の語順に関する本調査を行う予定であったが、新型コロナウイルス感染症の影響により断念せざるを得ず、再度プロジェクトの延長申請を行うこととなった。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大状況やワクチン接種の進捗により、以下の2パターンの研究計画が考えられる。 1)海外渡航が可能な場合:2020年度に扱った話法の助動詞のテーマについて口頭発表や論文執筆を行う一方、本来行う予定だった動詞群の語順に関する現地調査を行い、ほぼ当初の計画通りにプロジェクトを完了させる。 2) 海外渡航が不可能な場合:2020年度に扱った話法の助動詞についての研究を重点的に行う。 2) の場合、当初の研究計画通りのバランスでルクセンブルク語の動詞類の形態・意味・統語を網羅することはできないが、ルクセンブルク語の動詞記述を行う上で重要と考えられる話法の助動詞の記述や分析を充実させることができる。 文末(右枠)における動詞群の語順の問題は、いずれにせよドイツ語やオランダ語など他の西ゲルマン語の研究に寄与するためにも重要なテーマであると考えられる。2) のパターンになる場合も、2022年度以降、新たな研究プロジェクトの中にこのテーマを組み込むなどして、2018年度のパイロット調査によって得られた知見を活かしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度にルクセンブルク における現地調査を予定していたが、新型コロナウイルス感染症の影響により海外出張ができなかったため。 繰越額は2021年度に海外渡航できるようになればそのために使用するが、それができない場合は図書費やPCなどの物品の購入にあてる予定である。
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