2021年度は、ルクセンブルク語における話法の助動詞に焦点を当て、その意味領域を整理した。また、本研究課題の最終年度であるため、その総括を行った。以下で話法の助動詞の意味領域の概略を説明する。 方言学的にはドイツ語西モーゼルフランケン方言に属する同言語には、まず標準ドイツ語の moegen の同根語がない。その本動詞的な用法は lux. gaer hunn (dt. gern haben) が担い、推量の助動詞としての用法は lux. kennen (dt. koennen) や lux. waeerten (dt. werden)が担っている。後者は、推量の助動詞としてしか用いられず、dt. werden が有する本動詞「...になる」という意味は lux. ginn (dt. geben)、標準ドイツ語ではdt. werden の接続法過去形 dt. wuerde が担う助動詞としての役割は、lux. ginn もしくは lux. goen (dt. gehen) の接続法過去形 lux. geif (dt. gaebe)/geing (dt. ginge) が担っている。lux. daerfen (dt. duerfen) は、疑問文や否定文でしか用いることができず、dt. duerfen の否定と同様、禁止を意味する。標準ドイツ語の duerfen は、肯定文では許可の意味を担っているが、ルクセンブルク語では許可を表すためには lux. kennen が用いられる。lux. mussen (dt. muessen) は、標準ドイツ語と同様、肯定文では強制を意味する。「強制されていない」という意味での「...しなくて良い」が lux. muessen の否定で表現されるのに対し、「必要がない」という意味での「...しなくて良い」は lux. brauchen (dt. brauchen) の否定で表現される。これは、他の話法の助動詞と異なり、不定詞標識 ze を伴う不定詞を必要とするが、その屈折語尾は話法の助動詞と同様の特徴を有している(1/3人称単数において無語尾となる lux. ech/hie brauch (dt. ich brauche / er braucht))。
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