平成27年度は主に節境界を超える長距離名詞句移動がどのような条件下において許されるのかを検証し、派生の相のあり方を含むその理論的帰結を考察した。特に以下の2点について考察しその成果の口頭発表及び論文執筆を行った。 (1)節境界を超える長距離名詞句移動が埋め込み節における主格付与とどの程度相関するのか。 検証の結果埋め込み節内で主格が付与される条件下においても節境界を超える名詞句移動が可能であるということが確認され、格付与により埋め込み節に派生の相が形成された場合においても長距離移動が可能であることが明らかとなった。更に意味役割を着点で受けない長距離名詞句移動だけでなく、意味役割を着点で受ける長距離名詞句移動が可能であるという新たな証拠が提示された。これらの研究成果は南山大学及び慶應義塾大学に於ける招待講演で発表された。 (2)長距離名詞句移動に課せられる制限をどのようにして説明できるのか。 長距離名詞句移動において観察される局所性は、主節の機能範疇と埋め込み節内の主語との間の一致 (AGREE) の局所性に還元できると主張した (cf.Funakoshi 2014)。この主張は長距離名詞句移動の適用可能性が埋め込み節の補文標識のΦ素性の有無と相関するという新たな観察によって支持される。この成果を南山大学での招待発表、慶應義塾大学での招待発表、そして三重大学で開催された Formal Approaches to Japanese Linguistics 8 (FAJL8) で発表した。
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