平成27年度に引き続き、補文標識句を超える長距離名詞句移動にについて検証し、階層を形成する補文標識句と派生の相について考察を行った。特に以下の2点について検証し、その成果の口頭発表及び論文執筆を行った。 (1)長距離名詞句移動に課せられる制限は派生の相の形成とどのように関係するのか。 平成27年度に得られた「長距離名詞句移動の局所性は、主節の機能範疇と埋め込み節内の主語との間の一致 (AGREE) の局所性に還元できる」という主張をさらに推し進め、その妥当性を検証した。この分析のもとでは、派生の相を形成する補文標識句を超える長距離名詞句移動が、補文標識句が一致を阻止しない限りにおいて可能になると予測される。検証の結果、実際にその予測が正しいことが確かめられた。この成果が( A)On the pseudo-small clause construction in Japanese: New evidence for A-movement out of a CP and its theoretical implications 及び(B)A note on improper movement and locality of AGREE in Japanese という題目の論文として公刊されることとなった。
(2)(1)で得た結論を補強する新たな証拠が発見できるのか。 (1)での議論を補強するためには、補文標識句の(抽象)格の有無と長距離名詞句移動の適用可能性が相関することを示す必要がある。そこで日本語の補文標識の振る舞いを検証し、句の内部からの目的語位置への長距離名詞句移動を常に許さない日本語の補文標識「か」は、形態的な格の表出の有無に関わらず常に抽象格を有していることを示した。この観察は(1)での結論を補強するものである。この成果は南山大学での口頭発表にて報告された。
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