本研究の目的は、言語に見られる文構造の普遍性と語順の多様性の神経基盤を解明することである。そこで本研究では、日本語とマヤ諸語のひとつであるカクチケル語の母語話者に対して機能的磁気共鳴画像法 (fMRI) 実験を行い、語順変化に伴う脳活動の共通点・相違点を明らかにすることを目指した。昨年度に引き続き、カクチケル語母語話者と日本語母語話者に対するfMRIを用いた脳活動の解析を進めた。 カクチケル語では基本語順のVOS(動詞-目的語-主語)に加えて、SVO、VSO、OVSなどの様々な語順を文法的に許容する。言語学では、これらの語順変化はかき混ぜ操作や主題化操作の結果であると主張されてきた。文の意味と絵の内容が一致するかどうかを判断する「文‐絵マッチング課題」を用い、かき混ぜ操作と主題化操作によって脳活動が変化する領域を調べた結果、かき混ぜ操作を含む文では、左下前頭回と左外側運動前野の活動が上昇することが明らかとなった。これらの脳領域は文法処理に特化した文法中枢であると提案されており、これらの脳活動は文法処理の負荷を反映していると考えられる。また、主題化操作を含まない文では、両側のヘッシェル回および上側頭回で脳活動の上昇が見られた。主題化に伴って語順やプロソディが変化することで文の理解が容易になると考えられるため、両側側頭葉の活動は意味処理や音韻処理の負荷を反映していると考えられる。以上の結果は、文法処理と意味処理・音韻処理が脳の異なる領域で処理されることを示していた。また、日本語母語話者に対する「文‐絵マッチング課題」を用いたfMRI実験も行った結果、やはり、かき混ぜ操作に伴って左下前頭回を中心とする領域の活動が上昇することが明らかとなった。カクチケル語母語話者に関する成果は査読付き国際誌に掲載予定である。日本語母語話者に関する成果は、現在、査読付き論文として投稿中である。
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