イントネーション研究において扱われる現象のうちに,F0 低下現象(downtrends)として包括される諸現象がある。本研究では特に,ダウンステップ(downstep)ないしそれに類する局所的なF0低下現象に着目し,この現象が音声的にどのような実現をするか,および,その現象が音声的か音韻的かを明らかにしようとするものである。 2018年度は,日本語の局所的F0低下現象を調べるために録音を実施した。録音資料として用いたのは,統語的曖昧文および統語的曖昧文ではない文である。被験者が文を解釈しやすいように,業者にイラストの作成を委託し,そのイラストをスライドに挿入した。録音に際しては,そのようにして作成したスライドを用いた。統語的曖昧文でない文を用いた読み上げ課題では,被験者は統語構造に意識を向けにくいと考えられる。一方,統語的曖昧文を用いた読み上げ課題では,被験者は統語構造の差異に意識を向けることになると考えられる。もし局所的F0低下現象が音韻化したものであるならば,特定の統語的条件下で自動的に局所的F0低下現象が自動的に生じ,そこに統語構造への意識はかかわらないと予測される。一方,局所的F0 低下現象が音韻化していない場合は,統語構造に意識が向けられたときにのみ構造の差異に対応するかたちでF0 の実現に差異が生じると考えられる。 録音は2018年度中に実施したが,録音データの分析に手間がかかっており,まだ分析が完了していない。本研究課題終了後も分析を続け,その結果をまとめて発表する予定である。
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