本研究課題は、昨年度が最終年度の予定であったが、今年度まで研究機関を延長した。そのため本年度は、昨年度に引き続き、研究成果をまとめることに集中し、主に、身体動作の他者繰り返しに関する研究成果について論文にまとめた。 研究期間全体を通し、本研究課題に関しては、以下のような「繰り返し(反復)」を扱った。 (1)傍参与者による、先行話者による発話の繰り返し、(2)聴き手による、先行話者による身体動作の繰り返し、 (1)では、傍参与者が、直前の話し手の発話を繰り返しながら、その話し手に指さしを向ける現象を取り挙げ、それが直前の発話をきっかけとした活動を組織することを示した。(2)に関しては、まず、話し手が自分や他者の経験についての「語り」に従事する際に頻繁に用いる、出来事の再演(reenactment)における身体動作と、その語りの聴き手による、類似した再演を検討した。また、身体動作を伴う活動の教授場面において、講師の動きに対し、生徒や傍参与者が、講師の身体動作を繰り返すケースも検討した。 まず、傍参与者による繰り返し、聞き手による繰り返しのいずれにおいても、他者繰り返しが、先行する行為とのつながりを示したり、それらに対する反応を埋め込んだ形でそれをきっかけとした新たな行為や活動を構築したりすることを可能にすることが明らかになった。一方で、身体動作の他者反復と発話の他者反復との相違点も明らかになった。発話の場合、[他者反復+イントネーションや笑い]によって、繰り返した発話に対する直接の応答や反応を示すことができる。それに対し、身体動作はそれ単体で意味を持つものではないため、先行発話からの意味を保持したまま、それに対する直接的な反応をすることは見られなかった。そのため、先行話者による身体動作は、「再利用」されつつ、新たな行為として変容されると考えられる。
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