本年度は最終年度のため、引き続き契丹文字資料の文献学的研究を進めると共に、3年間の研究成果の総括を行った。 今年度の中心的な研究活動として、前年度に引き続き契丹大字と契丹小字の比較研究を進めるための予備的研究を進めた。成果としては、昨年度より進めていた契丹文字と漢字の対音データおよび契丹大字と契丹小字の同語表記の組織的収集をさらに進め、契丹大字の解読の基礎となる資料を作成した。作成した資料の一部は研究論文として出版予定である。今後は作成した資料を基礎として契丹大字の書記システムに関する研究を進める予定である。 契丹語の数詞に関して昨年度それまでの成果を研究論文として発表したが、今年度も数詞の研究に更なる進展があり、10歳以下の年齢を表すために用いられる特殊な派生形式が存在すること、またそれらは文法性(男性・女性)により異なった形式を持つことを明らかにした。この発見により、契丹語の数詞の形態論に関して新たな知見が得られただけではなく、新たに若干数の契丹文字の音価推定が可能となった。この研究成果は研究論文として発表する予定である。 本年度は米国インディアナ大学にて客員研究員として滞在し研究活動を進めた。インディアナ大学のG.Kara教授とともに契丹語の形態論について考察を加える機会を得た。また、客員研究員として滞在中であった中国・モンゴルの歴史研究者とも議論する機会を得ることができ、研究者のネットワークの構築を進めることが出来た。
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