研究課題/領域番号 |
15K16747
|
研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
井下田 貴子 上智大学, 理工学部, 研究員 (80735994)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 母音 / フォルマント / 言語変化 / 韓国語 / 方言 / 音声生成 / 音声知覚 / 若年層 |
研究実績の概要 |
本研究の最終目的は、近年の韓国語ソウル方言に見られる後舌母音の言語変化において、音響特徴と知覚の関連性について調査し、若年層話者の共時的実態を把握することである。韓国語ソウル方言の後舌母音/o/は現在、変化の過程にあり、母音を特徴づける低次のフォルマントが後舌母音/u/と近似することが明らかになっている。また、その特徴は世代差、男女差という非言語的要因が関わっており、近年では若年層の男女差に変異が表れていることが報告されている。しかし、生成における音変化の確実性や、音質の変化による知覚への影響に関する報告は少ない。そこで、本研究では、1)言語変化の過程の母音が、様々な音環境においても生起する確実な現象であると仮定し、音響的に検証する。2)聴取実験により、音響特徴が近似する母音の識別判断および識別における敏感さについて探り、若年層ソウル方言話者に見られる音響特徴と知覚領域との連動・関連性を解明する。 平成27年度は、上智大学において、1)の音響分析について集中的に行った。若年層ソウル方言話者男女12名(男:女=6:6)に、韓国語版「北風と太陽」を、「ゆっくり」「普通」「速い」の3段階の発話速度に分けて朗読してもらった。それらの音声について、/o/と/u/の2母音を切り出し、音響分析を実施した。その後、男女別に分け、/o/と/u/がどれだけ近似しているのかを統計的な手法により分析を行った。録音音声は予定よりも少なかったため、平成28年度に追加録音を行う予定である。また、2)の知覚実験も実施する。 本研究において予想される結果は、音響特徴のバリエーションと知覚領域の連動の関連性が、合成音声を用いることによって明らかになると考えられる、また、豊富な音響特徴のバリエーションを得ることによって、ソウル方言の言語変化の進行の程度の解明につながると考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度は、若年層韓国語ソウル方言話者を対象とした音声録音を実施したが、韓国国内における伝染病(MERS)の流行により、大学側より渡航延期勧告があったため、韓国での録音の実施がかなわなかった。万が一の事態を考慮し、予め録音しておいた音声データを用いて分析を行った。予定の1/5の音声データ数であったが、音響分析が無理なく十分にできたため、男女別のおおよその傾向が見られた。これらの分析結果に基づき、平成28年度に追加の録音を行うことで、詳細な傾向をより把握できるだろうと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、主に知覚実験に関わる作業を行う予定である。まず、実験に用いる音声刺激は、(ⅰ)これまでの録音音声で得た生データ、(ⅱ)合成音声、の2種類を準備する。(ⅰ)の生データは、これまでに録音した音声(/o/と/u/の2母音)で、様々な音環境を予定している。(ⅱ)の合成音声については、これまでに録音音声で得た生データの分析結果から、男女ともに、/o/と/u/の2母音の特徴を反映させた音声を作成する。 実験方法は、1人ずつヘッドホンから流れる音声(/o/もしくは/u/)を聞いて、/o/もしくは/u/のどちらに聞こえたかを選択する。実験結果は、生データと合成音声の正解率を比較し、統計的に分析する。そして、/o/と/u/の2母音を知覚識別するために用いている音響特徴について探る。また、平成27年度に行う予定であった音声録音の不足分について追加録音も行う。録音後は、/o/と/u/の音響分析後、統計的な処理を行い、男女差を観察する。統計的な処理には、判別分析を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
実験先の韓国で中東呼吸器症候群(MERS)の流行があり、渡航延期勧告が発令されたため、大幅に研究計画を変更せざるを得なくなった。そのため、支出予定であった出張費用が未使用となり、必然的に次年度使用額に変更せざるを得なくなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度(28年度)に実験を予定しているため、27年度分の支出分を充ててデータを収集する。
|