研究課題/領域番号 |
15K16753
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研究機関 | 奈良大学 |
研究代表者 |
山本 尚子 奈良大学, 教養部, 講師 (90573436)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | トートロジー / 修辞表現 / 言語獲得 / 関連性理論 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、幼児のトートロジー発話の抽出、英語の名詞句トートロジーの解釈(理解)プロセスに関するGibbs and MacCarrell (1990)の実験の問題点の整理、否定表現の範疇におけるトートロジーの位置づけに関する分析、を行った。具体的には以下の通りである。 まず、データベースや幼児の発話をまとめた本から、トートロジー発話の理解及び産出の実態を抽出した。研究対象である幼児自身が、言語を獲得する過程にあるためか、量的分析が行えるほどの実例を収集することはできなかった。だが、幼児によるトートロジー発話の理解や産出を体系的に把握する上で、当該年度に収集できたデータは貴重である。 第二に、実験データに基づく分析を行ったGibbs and MacCarrell (1990)の問題点を整理し、今後行う実験の方向性を模索した。 第三に、トートロジーが否定表現の範疇の中でどのように位置づけられるのかを明らかにするため、英語の実例に基づき、トートロジーと、メタ言語否定、アイロニーの比較検討を行った。そして、1.トートロジーによって否定される対象は、帰属的な思考の概念内容であり、それは、メタ言語否定によって否定されるものとは異なること、2.トートロジー発話そのものは、アイロニーやメタ言語否定とは異なり、エコー発話ではないこと、を明らかにした。このような結論は、否定表現の範疇において、トートロジーが他の否定表現とは異なる特性を持っていることを示唆している。従来の研究では、トートロジーを否定表現の一つとしてとらえることはあっても、他の否定表現との類似点や相違点を議論の焦点とすることはなかった。だが、本分析は、他の否定表現との比較検討を通して、ほとんどの言語に普遍的に存在するトートロジー発話の解釈メカニズムの全体像を説明することができ、大変意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度は、1.データベースや絵本、幼児向け番組などから、幼児のトートロジー発話の理解及び産出の実態を抽出し、その特徴を明らかにすること、2.Gibbs and MacCarrell (1990)が行った、英語の名詞句トートロジーの解釈プロセスに関する実験の問題点を整理し、日本語名詞句トートロジーの解釈プロセスに関する実験(被験者:学部学生)を行うこと、を予定していた。 だが、実際には、1に関しては、幼児のトートロジー発話の実例収集を続けているが、その特徴を把握できるほどの用例数には至っていない。研究対象が、言語を獲得する過程にある幼児であるため、計画当初から、想定した範囲内で必要なデータが得られないことも予想されていたが、今後は、データ収集の範囲をさらに拡大し、幼児によるトートロジー発話の全体像を把握できるよう、データ収集に努めたい。また、2に関しては、彼らの分析の問題点の明らかにし、日本語名詞句トートロジー理解に関する実験手法などを探ったが、実際には、実験を行うことができなかった。従来の日本語名詞句トートロジーに関する研究には、実験データに基づくものがなく、実験手法を確定するのに、予想以上に時間がかかってしまった。実験に基づく、メタファーやアイロニーなどの他の修辞表現に関する研究を参考にしながら、平成28年度には、実験内容を確定し、実施したい。 以上のように、申請当初の計画を踏まえると、<やや遅れている>と判断される。だが、研究実績の概要で述べたように、否定表現の範疇におけるトートロジーの位置づけに関する分析を行うことができた。このような分析を行うことは当初の予定にはなかったが、トートロジーとアイロニーの比較実験(平成29年に実施予定)の内容を考える上で、重要な指針となると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、データ検索範囲を拡大し、幼児のトートロジー発話の理解・産出の用例収集を続ける。また、日本語名詞句トートロジーの解釈プロセスに関する実験(被験者:学部学生)を計画し、実行する。本実験を通して、Gibbs and MacCarrell (1990)による実験結果の妥当性を検証するとともに、実験データに基づき、日本語名詞句トートロジーの解釈プロセスの解明を目指す。 平成29年度は、引き続き、用例収集に努めるとともに、日本語名詞句トートロジーの解釈プロセスに関する実験(被験者:幼児)を行う。この実験から得られたデータに基づき、トートロジー発話の理解・産出に関して、幼児と大人には違いがあるのか、また、もし違いがあれば、それはどのようなものか、という点を明らかにする。今回の実験は、被験者が幼児であるため、実験内容そのものを理解することが難しくなることが予測される。実験内容の指示を工夫するとともに、場合によっては、被験者の年齢層を幼児から児童に拡大する可能性も視野に入れながら、実験内容を考え、実施したい。 最終年度は、トートロジーとアイロニーの理解及び産出に関する比較実験(被験者:幼児)を行う。時間に余裕があれば、トートロジーとメタファーの比較実験も行いたい。このような比較実験を通して、研究対象とした修辞表現の共通点や相違点は何か、また、トートロジーの理解や産出は、他の修辞表現よりも早いのか、遅いのか、という2点を明らかにし、幼児の言語獲得過程における、修辞表現の関係性を整理する。万が一、後者の比較実験を行うことができなかった場合は、メタファーや、メタファーとアイロニーの比較に関する先行研究は数多くあるので、その研究結果から、トートロジーとメタファーの関係性に関する示唆を得ることも可能であるように思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度に実施を予定していた、日本語名詞句トートロジーの解釈プロセスに関する実験(被験者:学部学生)を計画し、実施することができず、実験に必要な機材(ビデオカメラなど)を購入することができなかったから。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、実験実施に必要な機器購入(ビデオカメラなど)と、図書購入(言語学、語用論、アイロニー、メタファーといった修辞表現、心理学、幼児教育、統計処理関連図書)を予定している。研究代表者の本務校は、言語学や心理学に関連する雑誌の蔵書が少ないので、必要に応じて、他大学への文献複写依頼費や現物賃借依頼費を計上したい。次年度は、特に、幼児による発話の実例収集範囲をさらに拡大しなければならないので、データ収集が可能となるもの(例えば、小説などをデータベース化したものを収めたCD-ROMなど)を充実させる必要がある。 関連分野に関連する動向を知るために、また、自身の研究発表のために、学会出席が必須となるため、国内旅費及び海外旅費(アメリカ)を計上する。さらに、今後の学会発表に向けて、研究発表への投稿及び発表原稿を準備する必要があるので、英語論文校閲費が必要である。
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