研究課題/領域番号 |
15K16754
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研究機関 | 広島経済大学 |
研究代表者 |
重野 裕美 広島経済大学, 経済学部, 准教授 (70621605)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 記述言語学 / 琉球諸語 / 危機言語 / 奄美方言 |
研究実績の概要 |
平成28年度は本研究の第3段階として(1)「フィールドワークによる文法・語彙調査および自然談話資料の収集」,第4段階として(2)「音韻,形態,統語にわたる共時的な分析,語彙の整理,談話資料の作成」を目標としていた。 まず,(1)については国立国語研究所が作成した基礎語彙調査票を利用し,600語程度の語彙を収集することができた。また、文法の基本的構造の記述のため,与路島・請島を中心とした奄美大島方言を対象として音素目録,音節構造,主な形態音韻論規則,動詞や形容詞の活用,格体系などを調査した。特に,先行研究および予備調査で判明している中舌母音/前舌母音,喉頭化音/非喉頭化音の対立,音節末子音の調音点の対立に留意して当該方言の特徴が捉えられるデータセットを得ることができた。さらに,敬語調査を実施し,当該地域方言の敬語形式やその意味・機能について整理・記述を進めることができた。 (2)については(1)で得た一次資料を考察し,音韻・形態・統語にわたる共時的な分析を進めた。また,語彙や談話に品詞や形態素情報(グロス)を付け加えて,言語学的に利用可能な資料の作成を進めた。 対象地域では方言の共通語化が進んでいるため,毎回の調査が言語の記録・保存・継承活動を進める上で重要なデータとなる。このように整理・分析されたデータは,今後,各地域における方言テキストや方言教材を作成する上で欠かせない基礎的な資料となる。また,専門家だけではなく一般の方にも理解しやすいように小川晋史[編](2015)『琉球のことばの書き方─琉球諸語統一的表記法』(くろしお出版)で提案された表記法に基づいたかな表記,アルファベット表記を用いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の実施計画は「(第3段階)フィールドワークによる文法・語彙調査および自然談話資料の収集」,「(第4段階)音韻,形態,統語にわたる共時的な分析,語彙の整理,談話資料の作成」を目標としていた。 「おおむね順調に進展している」理由としては,まずは話者からの協力が得られやすいことがあげられる。話者は仕事を引退されているご高齢の方が多いため日中の比較的調査日程の調整がしやすい。さらに,方言を第一言語にしている世代が話者であるため質問や談話収集に関しても短時間で多くの資料を得ることができている。 次に, 研究ネットワークのサポートが充実していることがあげられる。琉球諸語だけではなく,危機言語を対象とした共同研究に参加している。それらの研究会で文法記述のための分析手法の知識や他の琉球諸語のデータを知る機会が得られるとともに,分析結果を発表し,フィードバックを得られている。研究会以外でも週に一度,琉球諸語を対象とした研究者同士で勉強会を開催し,調査データを持ち寄りながら質問項目の精査や分析手法の具体的なアドバイス・相談できる時間があるため調査・分析も効率よく進めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き,与路島・請島を中心とした奄美大島方言が話されている地域を対象としながらフィールドワークによる語彙・文法の基礎的調査を進めていく。来年度は第4段階で得た分析結果を適宜,国内外の学会・研究会で発表し,理論研究者や他言語研究者,類型論研究者,他地域の琉球諸語研究者からのフィードバックを得る機会を積極的に設けたい。それらをもとに,データの分析手法を改良し,一般言語学的・類型論学的に価値の高い文法記述書を作成することを目指す。 研究計画として申請段階では第5段階として「一般言語学的・類型論学的に価値の高い文法記述書を出版する」としていたが,現段階の状況では調査時間も限られているため,全体の文法事項を網羅できるだけのデータ収集が難しい。そのため,専門的な文法書作成・出版ではなく,当該地域方言の文法をある程度網羅できる簡易版の文法書を作成することに変更する。 研究開始時点では予測されなかった特徴も可能な限り取り上げるため,談話資料や民話も収録するとともに書き起こし作業を並行し,そこで観察された形式・機能も含めて質問調査で精査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は当初の計画時よりも他地域との比較をする目的で調査地が予定よりも数地点増えた。調査地点の増加に伴い,調査回数を増やす計画を立て,不足している旅費を平成29年度分から前倒し請求する手続きをした。 しかしながら,実際の調査では話者との日程調整がスムーズに進むとともに,1回分の調査で2回分の調査項目のデータを得られるなど,調査回数は予定ほど増やす必要がなくなった。よって,次年度には前倒し請求した旅費の残額を繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
今後も引き続き,与路島・請島を中心とした奄美大島方言が話されている地域を対象としながらフィールドワークによる語彙・文法の基礎的調査を進めていくために調査旅費を4回分使用する。また,分析結果を適宜,国内外の学会・研究会で発表し,理論研究者や他言語研究者,類型論研究者,他地域の琉球諸語研究者からのフィードバックを得る機会を積極的に設けるため,学会参加のための旅費も2回程度使用する。 さらに,得られたデータを整理・分析し,対象地域の簡易的な文法書を作成する予定である。文法書の印刷費用を物品費として使用する。
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