研究実績の概要 |
本研究は,与路島・請島を中心とした北琉球奄美大島方言の体系的記述,若年層への継承活動,敬語体系の運用実態の比較を行うことを目的としている。調査対象とした地域は,主に与路島与路集落,請島請阿室集落,加計呂麻島芝集落,奄美大島の北部に位置する奄美市佐仁集落,龍郷町浦集落,南部に位置する大和村今里集落である。 平成29年度はこれまでの調査から得た分析結果を適宜,国内外の学会・研究会で発表し,理論研究者や他言語研究者,類型論研究者,他地域の琉球諸語研究者からのフィードバックを得,これをもとに,分析を改良し,一般言語学的・類型論学的に価値の高い文法記述書を作成・出版することを目指した。 調査は国立国語研究所の機関拠点型基幹研究プロジェクト「日本の消滅危機言語・方言の記録とドキュメンテーションの作成」が作成している調査票を使用した。具体的には調査票に基づき,各集落の音声・音韻面としては音素・音素配列・音節構造・形態音韻論的交替を網羅する語例の収集,形態面としては名詞・動詞(主に敬語表現を収集)・代名詞・指示詞・疑問詞などの基礎的な語例を体系的に収集するとともに,当該地域の特色だと認められるものは積極的に収集するよう努めた。また,調査から得られたデータを整理・分析し,その結果を同じ調査票を用いて調査を実施している各地の研究者が集う学会や研究会で発表し,コメントを得,分析に反映させた。文法記述書作成に向けての基礎的データは揃いつつあるが,まだ未調査の文法項目があるため出版する段階には至っていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度は類型論的観点による前段階の分析の再検討及び理論研究者や他言語研究者にも利用可能な文法記述書の作成・出版を目的とした。また,分析結果を適宜,国内外の学会・研究会で発表し,理論研究者や他言語研究者,類型論研究者,他地域の琉球諸語研究者からのフィードバックを得,それを基に分析を改良し,文法記述書作成に反映することも目指した。 音韻面・形態面(主に敬語表現)を中心としながら当該地域のデータ収集に努めているが,調査対象としている調査項目や地域が多いため当初予定していた項目の6割程度しかデータを収集できていない。そのため,進捗状況は「やや遅れている」と判断した。 得られた分析結果は適宜,国内外の学会・研究会で発表し,理論研究者や他言語研究者,類型論研究者,他地域の琉球諸語研究者からのフィードバックを得られた点に関しては当初の目標を達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は本研究の最終年度にあたる。予定では学術的成果を基盤に,一般向け解説書や方言教材の作成,方言指導者の育成することを目標として掲げている。対象としている地域が多いため,文法書の作成・出版をすることは難しいが,現在調査を実施している与路島与路集落,請島請阿室集落,加計呂麻島芝集落,奄美大島の北部に位置する奄美市佐仁集落,龍郷町浦集落,南部に位置する大和村今里集落に関しては,国立国語研究所の調査票を用いながら音声・音韻面,形態面,統語面を網羅するようデータ収集に努める。さらに,自然談話も可能な限り各地域で収集することでより当該地域の実態に即したデータが得られるようにする。
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