本年度は,人に酷似した2体のアンドロイド・ロボットを用いた対話実験で収録した音声の音響分析を行い,ロボットの外見上の相違がどのように発話韻律に影響を与えるのかについて,印象評価のアンケート結果を交えた分析を行った。被験者は20代の男女6名で,アンドロイド・ロボットの外見は,彼/彼女らの年代と比較して,1体は明らかに目上であり,1体は対等である。分析では,発話速度と基本周波数に加え,対話で生じた笑いの頻度について検討した。 分析の結果,被験者と対等な外見を持つアンドロイド・ロボットとの対話において,目上の外見を持つものとの対話と比較して,被験者の発話速度(mora/sec)は速く,全フレーズの基本周波数中央値(semitone)は高く,笑いの頻度(笑った回数)は多かった。これら全ての指標において,有意差が確認された。また,笑い声における基本周波数中央値においても,対等な外見を持つロボットとの対話の方が,目上の外見をもつものよりも高かった。 対話実験のアンケート結果では,多くの被験者が「人と対話しているように感じたか」という質問に,両アンドロイド・ロボットで「はい」と回答していた。今回の実験では,1人の人物がアンドロイド・ロボットを遠隔操作して対話していたが,被験者は不自然さを感じていないようであった。また,アンドロイド・ロボットの年齢について,平均して「対等」では20代,「目上」では40代と回答しており,「対話に際して緊張を感じたか」について,前者では後者よりも緊張を感じなかったという回答が多かった。 以上から,アンドロイド・ロボットの年齢からくる外見上の相違が,発話速度・基本周波数・笑いという発話の要素に影響を与えることが明らかとなった。これらの結果は,バーチャル・エージェントを介した音声インタラクションにおいて,「外見」という対人要素が自然性に関与することを実証的に示している。
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