本年度の研究成果として、まず昨年度に実施した中世以降の「シウ(シユウ)」「シユ」の呉音形に関する口頭発表の内容を、論文の形にまとめたことが挙げられる(国語語彙史の研究37)。呉音資料で「シ(ユ)ウ」「シユ」のいずれが選択されるかについては、「韻学的な知識」「漢音との対比」「漢字音の一元化」など、様々な要素が絡み合っているというのが、この論文の骨子である。 この論文の中では、従来あまり着目されてこなかった資料「浄土三部経音義」の字音点も扱った。まとまった分量の字音点が見いだされる上に、年代を追うごとに呉音形の再形成も進んでいっていると思われたことから、全ての字音点を列挙・整理し、字音点分韻表という形にして基礎資料として提供することとした(神戸大学文学部紀要45)。 一連の研究を通して「漢字音の一元化」という流れに着目するようになっていたところである。従来は近代以降の特徴として論じられてきたものであり、昨年度の研究の中で現代日本語のあり方について考察し、現代に至っても一元化は完成していない見通しを示していた。本年度は過去のあり方に着目し、「論語」関連文献を主な題材として、呉音・漢音の複層性が機能していたとされている近代以前にあっても、すでに水面下では漢字音の一元化が進んでいたとする仮説を提示した。この内容については夏に研究会(東京大学国語研究室会)で発表し、論文の形でまとめたところである(国語と国文学・30年10月に刊行予定)。また、この論文では述べきれなかった点も含め、過去から未来に至るまでの日本漢字音の共存・再形成のあり方について、国際ワークショップで概要を示した(International Workshop on Humanities "New Perspectives in Japanese Studies Part 2")。
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