日本漢字音が現代に至るまでの間に発生した変化の中には、音韻変化とは別次元の「再形成」と称すべきものがあったことを確認した。すなわち、呉音・漢音相互の干渉や韻書・韻図などを踏まえた体系化などがそれに当てはまる。また、遅くとも中世以降には、実生活で使われる字音が1種類に収れんしていく「漢字音の一元化」があったことも認められた。日本漢字音の特徴として呉音・漢音の複層性が挙げられていたが、その実態とは必ずしも従来考えられていたほどには強固なものではなかったと思われる。このような「再形成」とは現在でも進行中なのであって、日本漢字音の内実とは、従来考えられていたよりも流動的なものであると考えられる。
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