本研究では、(A)既存の『日本語歴史コーパス 平安時代編』の出現形容詞を中心に新たな統語・意味情報をアノテーションし、(B)その情報を活用した中古形容詞の意味・用法研究を目指した。具体的には、(A-1)評価形容詞類に対する統語情報付与[→B-1 池上2015・2016]、(A-2)視聴覚形容語類を中心とする感覚形容語に対する統語・意味情報付与[→B-2 池上2017]、(A-3)次元形容詞類に対する統語・意味情報付与[→B-3 池上2018]、(A-4)高程度形容詞的表現の類に対する統語・意味情報付与[→B-4 池上・甲斐2017・2019]といった作業、及び、研究発表を行ってきた。これらのうち、平成30年度の研究成果についてその詳細を述べる。まず、池上(2018)では、新たに付与した次元形容詞の統語情報を活用し、[名詞+次元形容詞]という語構成をもつ複合形容詞の構文バリエーションを概観した。複合語に加え、それに準ずる表現([名詞+助詞+次元形容詞]など)も視野に入れることで、従来分析が十分に進められてこなかった、語と文との連続性に配慮した語構成研究の一例を提示した。また、内省のきかない古典語における客観的な語認定の試みとして、統計的指標を用いたコロケーション強度の検出も行った。次に、池上・甲斐(2019)では、上接する名詞句の表す動作・状態が高程度であることを強調する語りの定型表現「~事限り無し」の統語・意味情報を活用し、中学校国語科古文における意訳の授業に使用する教材作成と実践を行った。これまでの「通時コーパス」には、文脈レベルでの意味・統語情報の実装が不十分であった。本研究ではこれを新たにアノテーションし、統計的手法により分析することで、中古形容詞の発展的かつ実証的な研究を展開するのみならず、国語教育において有用な教材を提供することができた。
|