本研究では、国立国語研究所より構築が進められていた「日本語歴史コーパス」中の、洒落本を対象とするコーパスについて、各作品の会話文の話者に関する社会言語学的な情報を調査し、別途新たにデータ化し、既存の形態論情報・文書情報と連動させたうえで、その情報を用いて、近世後期江戸語・上方語を計量的に分析することを目的とした。 洒落本は、近世後期の口語資料として、極めて重要な資料であり、国立国語研究所「通時コーパス」開発プロジェクトにおいて、形態論情報と文書情報が付与されたコーパスの開発が進められていた。ただ、江戸・上方と舞台となる地域を異にし、男女様々の社会的背景をもつ人物が登場する洒落本は、地域差・身分差・性差など、その語を使用する登場人物の社会的背景に即した情報の活用が期待される資料でもあり、形態論情報や文書情報に加え、話者情報の充実が求められた。本研究はそのような研究上の要請に応えるために実施されたものである。また、『日本語歴史コーパス』においてこのような情報を付与する試みは初めてであり、歴史的文献を対象とした話者情報付きのコーパスを構築する際のモデルケースとしての意義も大きい。 2017年度は、本研究における集大成として、本研究で構築したデータを収載した、国立国語研究所(2018)『日本語歴史コーパス 江戸時代編Ⅰ洒落本』を公開することができた。現在、本研究におけるデータを利用した近世後期語に関する刊行物の分担執筆を進めているところである。 研究期間全体を通じて、コーパスのデータ構築・公開と、その利用・分析という大きな柱について、おおむね順調に進めることができたが、特に後者に関して、一定のデータ構築を見た今後、さらに継続して進めていきたいと考えている。
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