本年度は坂下の三根・大賀郷と坂上の末吉を中心に調査を行なった。また、中之郷・樫立地域での話者開拓に努め、活動地域を広げデータ収集に努めた。収集した自然談話音声を基に、文字に起こしてテキストとアノテーション情報を付与することで音声談話資料として整備する作業を行なった。これらは今後Webサイトを設け、下記のデータと併せて公開する予定である。 また、音声談話資料を活用するために必要な記述文法書の作成も進めている。本年度は動詞の活用体系の調査や例文収集を行なったほか、名詞の格体系の確認や、人称・指示代名詞の詳細なデータ収集を行なった。その際、先行研究の記述を再確認し、同一地点での個人差や世代差、用法のゆれや変化に着目した。その結果、これまで記述されていない複数接辞を発見し、現在の八丈語に新たに正常複数と近似複数の対立が生まれていることを確認した。このほか、これまで報告のなかったいくつかの事象についての記述を加えた。 さらに、八丈語の継承活動に音声談話資料を役立てるため、八丈語による紙芝居の作成を行なった。先行研究を参照しつつ、八丈島の民話「タコのムコ殿」を題材として採話し、話者の協力を得て、テキストをより伝統的な八丈語の体系に沿ったものに検討・修正して作成したものである。上記の音声談話資料と合わせてWeb上で公開予定である。 本年度は、本研究にかかわる研究成果として、2本の論文を発表したほか、国内での口頭発表1件と、国際学会での口頭発表2件を行なった。また、言語継承に関係する書籍の書評を1件執筆した。 以上の調査・研究は今後も継続して行なう計画であり、八丈語の方言差や個人差・世代差などバリエーションを含めた全体的な把握を目指している。今後は音声談話資料の整備と併せ、特に記述文法書の作成に傾注するとともに、会話集や教材開発等、言語継承活動を進めていく計画である。
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