平成28年度は,前年度までに得た自然会話のデータのタグ付け作業を行った。また,自然会話データを補足するために,自然会話の収録協力者(観音寺市での調査を除く)に調査票を用いた対面式の聞き取り調査を行った。この調査では,状況説明を付した共通語の文をインフォーマントに呈示し,方言に翻訳してもらう形でデータを得た。ネガティブエビデンスの問題に対応するため,文の容認度も調べた。 自然会話データ,聞き取り調査より,疑問文発話において発話行為と終助詞の結びつきの地域差と性差が交差的に現れることがわかった。会話中に終助詞「な」が頻出する綾川町の70代の女性のデータと,終助詞「の」が頻出する高松市三谷町の80代の夫婦のデータを比較し,出現する終助詞と発話行為(以下,具体的な発話行為を【 】に入れて示す)との結びつきについて,1) 【質問】,【把握】,【自問】の発話の「な」が,「の」の頻出地域にも現れることから,「な」は,「な」/「の」の出現頻度の地域差を超えて,「の」よりも広い発話行為をカバーしている,2) 「な」と「か」の違いが待遇性の度合いから説明できる,3) 発話行為との対応から,「な」,「か」,「かな」,「かいな」,「かいの」は,丁寧さの度合いの大小で連続していると考えることができる,4) 上記に並行して【質問】~【自問】の発話行為も連続している,5) 「な」と「の」の違いは,先行要素という統語環境の違いにも現れている,6) 音調に関しては,話者の性別,疑問詞の有無を問わず,【質問】で疑問上昇調が必須というわけではない,ということを明らかにした。 讃岐方言の終助詞「な」,「の」の出現の違いは,これまで地域差と性差で説明されてきたが,疑問文が注目されることはなかった。本研究では,疑問文に着目することで,讃岐方言のナ行音終助詞の出現の違いの詳細を明らかにした。
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