研究課題/領域番号 |
15K16769
|
研究機関 | 北見工業大学 |
研究代表者 |
戸澤 隆広 北見工業大学, 工学部, 准教授 (70568443)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 生成文法 / 英語 / ラベル決定の仕組み / 縮約関係節 / 比較節 |
研究実績の概要 |
本研究は、生成文法のミニマリスト・プログラムの枠組みで縮約関係節構文と比較構文に統一的分析を与えることにより、ラベル決定の仕組みを解明することを目的とする。 平成28年度は縮約関係節構文と比較構文の内部構造の解明に向け、理論研究を行った。具体的には1フェーズ理論とラベル決定のアルゴリズムの理解、2フェーズ理論に基づく仮説の構築と仮説の妥当性の検証、以上の二点の研究を行った。 1について、Chomsky (2000, 2001)とNarita (2011, 2014)を精読し、両者のフェーズ理論の共通点・相違点を整理することで、理論的理解を深めた。また、 Donati (2006)とChomsky (2008, 2013)を精読し、ラベル決定のアルゴリズムを再確認した。 2について、フェーズ不可侵条件が構成素のラベル決定に関わる可能性を検討した。具体的には、句範疇であっても、それがフェーズならば移動先でラベルになれるという理論仮説を立てた。これにより、次年度の発展的理論研究に向けての基盤を構築した。仮説の検証においては、前年度に収集した縮約関係節構文と比較構文の移動現象、束縛現象、熟語のデータを用いて検証作業を行った。 1と2の研究活動の成果として、Tozawa (2016) "A Unified Analysis of Reduced Relative Clauses and Comparative Clauses"を論文発表した。同論文では縮約関係節構文と比較構文において、句範疇であってもそれがフェーズならば、移動先でラベルになれるという仮説のもと、両構文の様々な統語特性に説明を与えた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は前年度の基礎研究を踏まえ、理論研究を行った。平成28年度の達成目標は1フェーズ理論の理解を深める、2理論仮説を構築し、それに基づき、縮約関係節構文と比較構文の統一的分析を試みる、以上の二点であった。 1について、フェーズ理論に関わる主要文献を精読し、論点を整理することで、フェーズを単位とする統語派生の進み方について理解を深めた。この研究により、フェーズ不可侵条件が構成素のラベル決定に関わる可能性に至った。 2について、句範疇であってもそれがフェーズであれば、移動先でラベルになれるという理論仮説を立てた。この仮説のもと、縮約関係節構文と比較構文の主要部繰り上げ分析を提案した。しかし、比較構文の束縛現象を観察すると、空演算子移動分析を支持するデータもある。この問題に関して、空演算子移動分析を支持する束縛現象は名詞句を主要部とする比較節において観察される現象であることが分かった。ここから、名詞句を主要部とする比較構文は、主要部繰り上げ分析と空演算子移動分析の両方のストラテジーが有効である可能性があるが、この可能性について今後さらなる検討が必要である。今後の研究課題を含め、これまでの研究の成果をTozawa(2016)として論文発表した。 以上、次年度に向け、検討事項も見つかったが、平成28年度の達成目標の1と2はほぼ達成できたと思われる。従って、本研究は概ね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度前半は平成28年度の基礎的理論研究を土台とする発展的理論研究を行う。主な研究項目は、1従来のラベル付けの理論を考察する、2ラベル付けの理論を精緻化する、以上の二点である。 1について、Donati (2006)、Chomsky (2008, 2013)は語彙項目のみが移動先でラベルになれるとしている。本研究で、Donati (2006)、Chomsky (2008, 2013)の経験的問題点を考察しながら、句範疇が移動先でラベルになれる可能性を検討する。 2について、どのタイプの句範疇が移動先でラベルになれるかを明らかにする。句範疇は(1)指定部のみを持つタイプ、(2)補部のみを持つタイプ、(3)指定部と補部の両方を持つタイプの三つのタイプに分けられる。本研究では、フェーズ不可侵条件のもと、(2)のタイプの句範疇が移動先でラベルになれると仮定する。この仮定に基づき、縮約関係節構文と比較構文の主要部繰り上げ分析の妥当性を検討する。 1と2に加え、状況に応じ、研究範囲の拡張を試みる。これまでの研究は、「名詞 動詞-ing~」型の縮約関係節構文と「形容詞-er than~」型の比較構文が中心だったが、「名詞 動詞-en~」型の縮約関係節構文や「as 形容詞 as~」型の比較構文に射程を広げ、これらが本研究の枠組みで扱うことができるか検討する。 平成29年度後半では、三ヶ年の研究の総括として、学会発表や学会誌での発表を行う。学会などで研究者からいただいた研究情報や論文の査読からの示唆をもとに研究をさらに進め、必要に応じて最終的調整などを行う。
|