本研究の目的は、削除操作がフェーズ毎に局所的に適用・認可されるとする、現行のフェーズ理論から導かれる仮説の下で、削除操作に課せられるとされてきた非局所的な「同一性」条件を局所的条件へと還元・解体し、削除操作の局所性を追求することにある。この目的を達成するため、前年度までは、非局所的な「同一性」条件として、「平行性」条件、「Max Elide」 条件、「同一性」条件を、統語的「平行性」条件へ還元することを試み一定の成功を収めた。この結果に基づき、平成29年度は、この統一的な統語的「平行性」条件を局所的条件に還元・解体可能か検討した。その結果、この「平行性」条件は、現行のフェーズ理論に基づく形で、フェーズ毎に循環的に行われるA-bar移動が形成する連鎖の同一性、特に、Chomsky (2000) 等における"occurence"に基づく連鎖の同一性を用いて定式化可能であることが明らかとなった。また、削除操作の適用についても、Thoms (2010) の提案のように、削除操作は、連鎖の線形化の一つの手段として、連鎖の構成要素自体を消すのではなく、連鎖の構成要素を含むより大きな統語対象を消す操作であると考えることで、連鎖の情報を用いて扱える可能性が示唆された。このように、削除操作の適用や統一的な統語的「平行性」条件が、局所的な言語演算の結果得られる情報に基づき述べることが可能であることがわかったことは、本研究の目的に照らして意義がある。
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