研究課題/領域番号 |
15K16772
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研究機関 | 明海大学 |
研究代表者 |
瀧田 健介 明海大学, 外国語学部, 准教授 (50632387)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 統語論 / 省略現象 / 線状化 / 文法格 / 助詞残留省略 / 生成文法 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、省略現象と深く関わる理論的道具立ての一つである統語構造の線状化について研究を行い、その成果を省略現象の一つである助詞残留省略に適用する際に、文法格が大きな役割を果たしていることを論じた。特に、統語的構築物のラベル付けという最近の理論言語学研究において大きな注目を集めている問題について、ラベル付けは統語構造の線状化のために必要であるという仮説を提案した。さらにその帰結の一つとして、助詞残留省略と呼ばれる名詞句レベルでの省略現象について新しい分析を提案した。 より具体的には、文法格を残留する移動によって当該の構文が派生されるという分析を提案し、この分析が先行研究の理論的問題を解決すると同時に、ラベル付けと線状化の関係に関する上述の仮説を支持することを論じた。この研究成果は、米国コネティカット大学言語学科、ニューヨーク大学言語学科および国立国語研究所における講演において発表され、現在専門誌に投稿するための原稿を準備中である。また、この分析の大きな仮定の1つであるラベル付けにおける文法格の役割に関する仮説について、日本語と英語の難易構文についての相違点の検討からこの仮説を支持する分析を提案した。この成果は、後藤亘氏との共同研究としてJapanese/Korean Linguistics Conference Satellite Workshopにおいて発表された。 また、平成28年8月29日から9月24日まで米国コネティカット大学言語学科にて研究を行うために滞在し、同学科の教員、大学院生および他の訪問研究員と理論言語学の最新成果について意見交換および情報収集を行った。また、自身の研究についても、発表や個別アポイントメントを通じてさらなる発展のために有意義なコメントをもらった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の中心的な研究課題の一つである省略現象と文法格の関連性について、統語的構築物のラベル付けの必要性を線状化に帰するというより広い理論的問題を扱った仮説の中でこの二つを有機的に関連付けられたことは、本研究の研究課題が理論言語学の諸問題の中でも重要な位置づけを持つことを示しており、また本研究の研究成果がより広い理論的含意をもちうることを示していると考えられる。 さらに、統語構造を言語の音声的側面と結びつける線状化は、言語の外在化というより大きな理論的問題に直結しており、省略現象と線状化を関連されて研究を進めることは、言語の外在化の中心的な理論的道具立てである統語構造の転送という操作の本質を明らかにする可能性がある。この点でも本年度の研究成果は来年度以降の理論的研究の進展に寄与するものである。 また、経験的な成果としては、助詞残留省略というあまり研究されてこなかった現象についての新しい分析を提案したことで、今後さらなる発展が期待できる。特に、提案された分析において中心的な役割を果たす文法格の性質をさらに探ることで、日本語以外の言語において助詞残留省略が許されるためにはどのような文法的特性が必要になるかなどの通言語的な研究を推進することができると考えられる。 以上に加えて、米国コネティカット大学での研究を通じて得た知見および研究者・大学院生との交流を通じて、新たな理論的課題の設定や進展の方向づけが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き省略現象および文法格が関与する諸現象に関する先行研究の知見の整理を行いながら、この二つの関連性を探ることで、当初の研究計画の推進を図る。特に、統語的構築物のラベル付けおよび統語構造の線状化に関する理論的・経験的問題も同時に整理しながら、より幅広い理論的帰結を得ることを目指して、統一された分析の提案を試みる。 平成27・28年度に引き続き29年度にも米国コネティカット大学言語学科を訪問し、さらなる意見交換および提案された分析の比較統語論的検証を図ることを目指す。 さらに、得られた研究成果を国際学会にて発表し、また論文として国際学術誌に投稿することで、よりよい研究成果をあげることを目指す。
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