平成29年度は、省略現象に課される文法的制約である同一性条件に関して研究を進めるとともに、前年度に行った統語構造の線状化に関する仮説の帰結を追求した。 まず前者に関しては、同一性条件が純粋に意味的なものかあるいは統語的ものかという理論的問題に関して日本語の分析からどのような理論的・経験的貢献ができるかを検討した。具体的には、英語のような言語の研究における態の不一致現象に基づいて提案されている仮説が、日本語において名詞化された節を検討することで支持できることを論じた。この成果は、米国コネティカット大学言語学科、ニューヨーク大学言語学科、慶應義塾大学レキシコン研究会などでの講演において発表され、現在国際専門誌に投稿するための論文を準備中である。 後者に関しては、統語構造のラベル付けと線状化に関して平成28年度の研究において提案した仮説をさらに洗練し、特に助詞残留省略だけでなく非顕在的移動においても文法格の有無が大きな役割を果たしていることを論じた。この成果は、南山大学言語学研究センターでの講演および日本英語学会第35回大会ワークショップにおいて発表され、論文としてまとめたものが現在国際専門誌において掲載審査中である。 また、平成29年8月28日から9月23日まで米国コネティカット大学言語学科にて研究を行うために滞在し、同学科の教員、大学院生および他の訪問研究員と理論言語学の最新成果について意見交換および情報収集を行った。また、自身の研究についても、発表や個別アポイントメントを通じてさらなる発展のために有意義なコメントをもらった。 補助事業期間全体を通じては、省略現象に課される同一性条件という観点からはあまり研究の進んでいなかった名詞句における省略現象に関して進められたこと、またそれに付随して線状化における文法格の役割について新しい視点をもたらすという成果があった。
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