研究課題/領域番号 |
15K16773
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研究機関 | 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所 |
研究代表者 |
船越 健志 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 理論・構造研究系, 特任助教 (40750188)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 言語学 / 統語論 / 省略現象 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、日本語の項省略及びそれに関連する省略現象であるVP省略の研究を中心的に行った。その成果の一部は、日本英文学会関西支部第十回大会シンポジウム(「付加詞脱落と擬似空所化」2015年12月20日、武庫川女子大学)及び第138回NINJALサロン(「日本語の動詞句省略と付加詞脱落」2016年3月15日、国立国語研究所)において口頭発表を行った。さらに、この成果をまとめた論文("Verb-stranding verb phrase ellipsis in Japanese")を国際誌Journal of East Asian Linguisticsに投稿し採択された(2016年5月に出版)。 日本語における(動詞残留型)VP省略の可能性は、Otani and Whitman (1991)で初めて議論された。しかしHoji (1998)やOku (1998)などでその存在が否定されて以降、日本語にVP省略はないというのが定説であった。したがって、日本語の省略現象の研究において、VP省略が議論の俎上に上ることはほとんどなかった。本研究は、この定説に疑問を投げかけ、日本語の省略現象を研究する際にVP省略の可能性を考慮に入れるべきであることを示した。 日本語にVP省略が存在するという本研究の結論が正しいとすると、項省略やCP省略の研究に影響を及ぼす。なぜなら、これらの省略現象の一部はVP省略によっても実現可能だからである。したがって、項省略やCP省略の性質を研究する場合、あるいはそもそも日本語にこれらの省略が存在するのかを議論する場合には、VP省略の可能性を慎重に排除した上で議論する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では平成27年度は、VP省略の通言語的研究を行う予定であった。しかし、通言語的研究を行うための足がかりとなる日本語のVP省略の存在を実証するためには、当初考えていたよりも、より複雑な議論が必要であることが分かり、日本語の研究に多くの労力を割かざるを得なかった。そのため、日本語に関しては当初予定していたよりも多くの成果を得ることができたが、その一方で日本語以外の言語に着手することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、前年度にやり残したVP省略の通言語的研究を行いつつ、日本語の疑問節縮約(IP省略)の研究に取り組みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年10月16日から18日にかけてカナダのConcordia Universityで開催されたアメリカ北東部言語学会への参加を計画していたが、配偶者の病気による手術及び入院と重なったため参加を断念した。そのために外国旅費を支出しなかった。また、今年度は通言語的研究を行う予定であったが、「現在までの進捗状況」で書いたように、結果的に日本語の研究に集中することになった。その結果、通言語的研究に必要であった記述文法書を購入することなく、十分な研究を行うことができために次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額が生じた結果得られた助成金の一部は、通言語研究において網羅する言語の数を増やすために、記述文法書(Routledge社のthe Descriptive Grammars シリーズ全20巻)の購入にあてたい。また、一部は米国ペンシルバニア大学で開催されるPenn Linguistic Conferenceに参加するための旅費にあてたい。
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