研究実績の概要 |
本研究は、ChomskyのLabeling Algorithm (LA)理論の観点から英語と日本語の句構造を観察し、これまで様々な条件を措定することによって説明されて来た言語現象に対してLAの観点から統一的な説明を与えることを目的とした。その際、生成文法理論の最新の枠組みであるミニマリスト・プログラムを採用し、LAが行われていると考えられている統語演算システムに焦点を当て、ラベル付けはどのように行われるのかという問題と、ラベル付けはそもそもなぜ必要なのかという問題を実証的に検証することによって目的の達成を目指した。平成28年度は、[1]の仮説を提案し、後者の問題を検証した。 [1] ラベル付けは探査の適用を最小化するために必要であり、探査はラベル付けられない構造の深部にはアクセスしない。 上記の仮説の観点から英語と日本語の間で観察される主語の抜き出し効果に対して統一的な説明を与え、LA理論に基づく新たなパラメータ変異の研究を提示した。その成果は、Proceedings of GLOW in Asia XIや日本英文学会支部統合号に論文として掲載された。研究期間全体を通じて実施した研究の成果は、The Linguistic Review、NELS, GLOW in Asia, 日本言語学会、日本英語学会、等の国内外の学会及び学術誌で発表され、一定の成果を得ることができた。 LA理論に基づくパラメータ変異の研究は、世界的に見てまだ殆ど行われていないため、本研究はその新たな可能性・方向性を示唆する先駆的な取り組みとなった。本研究を通して自由併合の適用可能性とレキシコン形成に関する新たな知見も得られたので、今後これらの点をさらに明らかにしながら、LA理論に基づくパラメータ変異の研究を引き続き行っていく。
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