本研究の研究課題である、第2言語の習得に影響すると考えられる第1言語と第2言語間の形態と音韻の異同が、聴覚面および視覚面の認知処理にどのような影響を与えるのかを明らかにするため、継続して中国語を母語とする日本語学習者への実験研究を行った。 27年度には、中国での現地調査により、日中二字漢字語の主観的音韻類似性指標データベースを構築したが、主観的な判定には判定者の属性やゆれという問題が生じる得るため、判定者の属性や判定方法の違いの影響を受けない客観的音韻類似性指標によるデータベースを構築した。これは、アルファベットで表記された2つの単語の形態上の一般化レーベンシュタイン距離(generalized Levenshtein distance)を日中言語間の音韻距離の尺度とするものである。28年度時点のこの指標は、主観的音韻類似性指標とは中程度の相関だったため、29年度はさらに改良を加え、両指標の間に高い相関をみとめることができた。 29年度は、単語の書字が同形(同形語)である場合、第1言語である中国語と第2言語である日本語の間における書字素の音韻類似性が第2言語の音韻処理に影響するのかを検証した。具体的には、改訂版客観的音韻類似性指標によって選定した、前漢字と後漢字の音韻類似度を「高」・「低」に調整した語を音声呈示し、語彙性判断を行ったところ、前漢字の音韻類似性の高さが誤答を引き起こしやすいことを明らかにした。この成果は、2018年第二言語習得研究会全国大会(JASLA)で報告した。 そのほかにも、本研究課題によって語彙学習時点での音韻介在の重要性が認識できたことから初級学習者における作文授業への語彙学習の応用実践を行い、国際大会で発表を行った。
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