本研究では、日本語学習者に有効な読解教育を実現するための読解技術を検討する。日本語を使って知識を得ようとする学習者は、第二言語としての日本語習熟度が発展途上であっても文章から単に単語や文の意味を知るだけでなく、そこから目的に沿った情報を引き出し、活用していく読解が必要である。しかし、母語と比べて日本語での読解は、単語の認知や1文レベルの文法解析に費やす認知的負担が大きく、文章処理に制約が大きい。そこで、文章処理を促進させるための具体的な読解技術を取り入れ、どのような学習者がどのような文章を読むときに理解が促進するのかについて検討した。 2016(平成28)年度は、以下の2点を実施した。1点目は、昨年度の予備調査で選定した文章を用いて要点関係図作成活動を取り入れて読む調査を中国の大学で日本語を専攻する学生を対象に実施した。データ分析の結果、要点関係図作成活動で適切に要点と詳細情報を区別する段階、選び出した要点を論理的に関係づける段階が難しい学習者には理解の阻害要因になりうることが明らかにされた。また、図を作成することに対する意識も影響を及ぼすことが示唆された。2点目は、上級日本語学習者のプロトコルデータの分析を進め、内容理解を目的に日本語で文章を読む過程で用いられている読解ストラテジーと理解の質の関係を調査した。データ分析の結果、文章を読んでいく過程で文章の定義と例示を関連づけていくとともに、全体の構造に注目しながら読み進めていく学習者は、文章から得た情報を新しい状況に応用できる深い理解に達していることが示された。
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