本研究の目的は、日本語を母語とする英語学習者における複語ユニット(multi-word units)の情報処理過程を明らかにすることである。 平成30年度では、引き続き、本実験を行った。実験を実施した後、実験データに基づいて、複語ユニットが心的にどのように処理されているかを考察した。その際、複語ユニットに内在する言語性質によって情報処理過程が異なるかを分析した。また、(1)学習者の習熟度によって処理過程が異なるか、(2)複語ユニットに内在する言語性質によって、学習者が複語ユニットを処理する際の負荷の度合や困難さの度合が異なるかを考察した。 考察の結果、学習者の習熟度が高いほど、表現全体のパターンの記憶へアクセスする処理が増え、単語の意味を一語ずつ組み合わせる処理のみで理解を行う表現が少なくなっており、習熟度によって処理方法が異なることが分かった。記憶されている表現を対象に、文法や一単語へのアクセスが並行して行われているかを分析した結果、使用頻度や親密度が非常に高い表現についてはアクセスがみられなかった。表現の定型度については、その度合による違いはなく、定型度への言語感覚が不足しているために処理方法に違いがみられなかったと考えられた。記憶されていない表現について、表現を構成する語の意味の不透明度が高いほど処理への負荷と困難さが高くなっていた。 複語ユニットに対する理解への「正確さ」「流暢さ」「自信度」を分析した結果、記憶された表現に関しては、「正確さ」と「流暢さ」・「正確さ」と「自信度」・「流暢さ」と「自信度」全てにおいて正の相関がみられた。学習者の習熟度が高いほど、表現全体を記憶した処理が多く用いられ、「正確さ」「流暢さ」「自信度」が高い表現が多くなっていた。 複語ユニットの習得によって言語処理への負荷や困難さが軽減されており、複語ユニットを学習する重要性が示唆された。
|