研究実績の概要 |
平成28年度においては,昨年度の予備実験を基に,本実験の一部についてデータの収集を行った。28年度の実験は,第一言語(L1)の視覚的単語認知研究において報告されている語彙競合現象が,第二言語(L2)の視覚的単語認知においても起こるのか否かを様々の実験条件において確認することを目的とした。 実験1では,課題としてマスク下のプライミング法(masked form prime)を用いた語彙性判断課題(lexical decision task,LDT)を採用し,プライムとターゲットの間の時間であるstimulus onset asynchrony(SOA)を操作した。実験では,各条件において前方マスクが800ミリ秒提示され,その後プライムが50ミリ秒提示された。実験条件として,(a) プライムの直後にターゲットが提示される条件(SOA 50 ms),(b) 後方マスクが50ミリ秒提示され,その後ターゲットが提示される条件(SOA 100 ms),(c) 後方マスクが100ミリ秒提示され,その後ターゲットが提示される条件(SOA 150 ms),(d) 後方マスクが150ミリ秒提示され,その後ターゲットが提示される条件(SOA 200 ms),の4条件が設定された。実験の結果,(b) のSOA 100 msの条件において,語彙競合に近い反応が得られたが,L1単語認知研究の結果ほど明確な結果は得られなかった。 実験2では,上記実験1の(b) と同様の課題と手続きを用いて,実験材料の文字数を操作した。実験では,プライムとターゲットの文字数が3文字(e.g., was-GAS)の条件と8文字(e.g., rational-NATIONAL)の条件を設け,両者のプライミングパターンを比較した。実験の結果,3文字条件では実験条件と統制条件で反応時間に違いは見られなかったが,8文字条件では実験条件において,わずかに語彙競合の反応が得られた。 このように,平成28年度の研究では,L2視覚的単語認知における語彙競合現象について実験を行い,いくつかの条件下で語彙競合に近い反応が得られた。
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